これって夢じゃ、ないよね…??
これがウソだなんて絶対言わないで。
胸の高まりがおさまらない。
恐る恐る指で頬を引っ張ってみる。
…痛い。
椛乃の頬から椛乃の指を離す、焦った表情をする先輩をじっと眺めて、まだ信じられないでいた。
本当に本当に信じられない。
顔を手で覆いうずくまった。
先輩はずっとずっと椛乃のこと“お前”とか“こいつ”とかで呼んでいた。椛乃は少し、いや結構それを気にしていた。
いきなりなんて不意打ちすぎるよ、先輩。
しかも苗字ではなく名前でなんて。
すっごく呼んで欲しかった。
きゅん。
胸が苦しいくらいに高鳴る。
頬がカーッと赤くなって手で隠しても隠しきれない気がする。
雪翔くんと莉奈は両片思いなんだよ?
ずっと2人は想いあってるの。
気が抜けたような、そんな声色が聞こえる。
辛くて辛くてたまらなかった。
この一ヶ月間本当に先輩に会えなくて辛かった。
諦めようと頑張ったのにぜんぜんこの気持ちは薄れなくて。
こんなに好きになった人は初めてで、一緒にいると胸がドキドキして苦しくて、安心して…。
ありったけの笑顔を向けて笑った。
咄嗟に出た『春樹くん』という言葉に春樹くんがびっくりしたような物音がする。
大粒の涙が溢れ出て涙を拭おうとすると先に春樹くんが涙を拭ってくれた。
そして春樹くんも
ギューッと抱きしめてくれた。
胸がキューっと痛くなるくらい鼓動が早くなって、でも春樹くんの匂いはほっとして。
矛盾ばかりの椛乃は返すように春樹くんに腕を回した。
体を離し、椛乃は春樹くんに話しかけた。
そう、今の椛乃たちはウエディングドレス姿とタキシード姿。
ちろりと上目遣いでおねだりをすると
ふっ、ととびっきりかっこいい笑顔を向けてくれた。
そして
──オレンジ色の空き教室で唇が重なった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!