緊張する、雪柱様から離れてはいけない。
無茶をさせることも、出来ない。
怪我だってさせられない、俺がちゃんとしなきゃ。
恥ずかしい。
兄貴しかいなかったからか、姉さん呼びは慣れない。
準備をしていると、さっそく扉が開く。
ゆ、雪柱様、めっちゃ笑顔……!!
眩しい〜……!!!
でもなんか、作ってる感ある。そう思うのは俺だけ?
ぎくしゃくしながらも、おばさんに挨拶をする。
おばさんが出ていくと、
雪柱様はまたいつもの真顔に戻る。
思わず苦笑い。
きっと、心の底から笑ったら雪柱様は綺麗な顔をするんだろうな、なって思っている自分がいる。
年相応の大人のような綺麗な笑顔なんだろう。
何年、笑っていないのだろうか。想像するだけ、きっと無駄なんだろうな。
だって、雪柱様は………。
店の奥に行けば、
用意されてるであろう衣服が並んでいた。
隊服姿じゃない雪柱様は、本当に綺麗で、町一番の美人と呼ばれそうな、ごくごく普通の人に見える。
もし、雪柱様は尼宮家に産まれなくて、普通の家庭に産まれて、両親に愛されて普通に育って、一途に愛してくれる男性と出会って、結ばれて、幸せに暮らしているのだろうか。
あの日、あの話を聞いてから、俺は雪柱様に幸せになってほしいと願い続けている。
そして、今の雪柱様を幸せに出来るのは兄貴なんじゃないか、とさえ思っている。
俺の思い込み、妄想かもしれない。
けれど、兄貴の雪柱様を思いやる気持ちも、雪柱様の兄貴に対する雰囲気も、嘘なんかじゃないんだ。
だから
だから………どうか…………いつか、いつでもいいんです。貴女が心の底から笑える日が来たなら、思いっきり笑って下さい。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。