だいぶ恵の胸で泣かせてもらった。
その間、恵みは私の髪を撫でてくれていた。
大丈夫か?
と優しく声をかけてくれた以外は
これからの事に、恵はなにも触れなかった。
五条さんに預けた手紙も必要なくなったかも知れない。
恵は、距離があっても付き合いを維持できるように
頑張ろうとしてくれていたんだね。
ごめんね。私にはその自信がなかったんだ…
私が、駅まで送るはずだったのに。
手を繋いだまま、見送られた。
そう言って握っていた手を私から離した。
背中越しに手を上げて、
恵がどんどん小さくなっていく。
その後ろ姿をずっと見ていた。目に焼き付けた。
五条さんから、手紙を受け取ったんだろうな…
その日から、恵からのLINEは来なくなった。
春を迎え、私は電車通学で都内の高校へ。
アキとユウキは同じ学校へ。
みんなの新しいページが始まった。
春から夏へ季節が変わり、休日に友達と買い物。
レジに並ぶ友達を外で待っていると
あの目隠しの人、前見えてんのかなぁ?
と通行人が言ってるのが聞こえた。
白髪の背が高い人が信号待ちしていた。
アイマスクのせいで顔がハッキリ分からないけど、
多分、五条さんで間違いない。
その後ろに目を向けると
似たような制服を着た人たちが、
賑やかに笑いながら五条さんに近寄る。
一瞬、五条さんと目が合った気がした。
その中に、楽しそうにしている恵がいる。
高専の人なんだろうな。
他2人も1年生?…女のコもいるんだ。
こんな人混みの中で、見つけられるなんて・・・
五条さん、特徴あり過ぎ、目立ち過ぎです。ハハ
皆、仲良さそうだなぁ。
恵、ウニウニ頭変わってない。元気そうで良かった。
顔が少し大人っぽくも見えた。
同じ場所に居たら、オレは分かるって言ったクセに
私が先に気付いちゃったね。
あなたお待たせー。どこ行く?
一応、五条さんに会釈したけど
私からは声を掛けなかった。
……………………………………………………
学業にも精を出し、テストの順位も良かった。
新しい友達もできて学校帰りにお茶したり
買い物にも出掛ける。
校内で付き合ってるカップルが
一緒に登下校している姿を見ると、
恵、元気かな?って思い出す。
あ、1度だけクラスメイトに告白された。
少しづつ色んな経験をして、みんな大人になっていく。
心に余裕ができたのかな。
恵を思う、切なく辛い気持ちは
いつの間にか無くなっていた。
春
ー河原ー
川向うの桜の木が満開。
ヒラヒラと花びらが舞い落ちる。
あれから1年が経とうとしていた。
砂利を踏む音が近づく。
誰もいなかった。
気のせいか・・・
でも、不思議と温かい気持ちになった。
再会できそうな、そんな気持ちに。
は〜・・・友達が来るまであと20分
プラプラその辺見てよっかな〜
信号待ち。横断歩道の向こうにいる
人の群れにため息が出る。
青に変わり、一斉に歩き出す。
沢山の人達が向かってくる
都会のこの感じがいつまでも馴れないでいた。
人を掻き分け、横断歩道を渡り切る先に
大人っぽくなった恵がいた。
一瞬驚いたけど、緊張はしなかった。
あのね、中2の花火の日に
五条さんに言われたんだ
その意味が、やっと分かった。
約束したもんね。
~END~
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。