恵は引っ越した。
昼に離れると言っていたから見送るつもりだった。
ーLINEー
恵は前を向いてる。
お互い違う道を歩くのは分かってるけど
淋しくなってきた。
でも、それを分かっているから恵は
帰りが遅くても、どんなに疲れていても
私を気付かう連絡をくれる。
その優しさが、胸をしめつける。
久し振りに、3人で遊ぶ。
ユウキはこの手の話しが大好き。
大事にされてる事は、分かってた。
優しいから、辛いんだ。
卒業式、家の前まで恵が迎えに来てくれた。
久し振りに制服姿の恵を見る。
今日でこの町で恵と会うのは最後だ。
校門まで行くと、在校生の数人が恵に声を掛けてきた。
あまり友達とつるまないタイプだけど、
ちょっとヤンちゃ気質だからか、割と目立つ彼。
下の女のコからは人気があった。
隣りにいる私は、ちょっと鼻が高かった。
無事卒業式が終わり、案の定
恵は在校生に囲まれていた。
引っ越し準備の日、私は五条さんにお願いをしていた。
これから呪術師として歩き出すのに、私のせいで
恵の持つ良心が仇となるかも知れないという事。
恵の使命を理解したいという事。
私自身、もっと精神的に強くなりたい事。
結局、子供な私が恵を、二人の関係を
ダメにするイメージしかできなかった。
辛くなっていた。
だから、リセットする為に恵から離れる事にしたんだ。
ー恵宅ー
直接話したかったけど、
私が大泣きして話せなくなると思うし、
最後まで恵の前では、元気でいたかった。
だから、五条さんに手紙を渡してもらう事にした。
最後に河原へ行こっか。
…………………………………………………………
しばらく川の流れを見つめてた。
恵がチョコと戯れてた光景を思い出した。
その時の川面もキラキラしてたな。
今は制服を着た私と恵がここに居るね。
だめだ、泣く。
訳も無く歩きだす。ううん、訳はあった。
泣き出しそうだから。
今日で最後だから。
付き合って行きたい、って言われたから。
その手を振り払って駆け出す。
逃げられないのは分かってるのに。
高架下の柱まで走って、恵に手を掴まれた。
泣いちゃだめ。
泣いちゃだめ。
私の両肩を掴む手に力が入る。
その力のせいで、私の力が抜けていく。
ごめん、今だけワガママ言わせてね。
泣かないつもりでいたのに
普通にバイバイしたかったのに
困らせたくなかったのに
そう言われるのも知ってる。
でも、それで良かった。
そう言って恵は、私の涙を親指で拭ってくれた。
唇が重なった。
私の言いたかった事が通じた気がした。
その瞬間。気持ちが少し楽になった気がした。
長く、あたたかいキスだった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。