事務所との契約を済ませ、みんなで楽しくゴハンを食べて、それでも興奮がおさまらなくて、しばらくしゃべっていた。
終電の時間を気にして、ひとり、またひとり、と帰っていく。
最後に俺らふたりが残された。
何となく分かれ難くて、カラオケ屋に誘った。
「何歌う?」
「うん……」
ボンヤリと焦点の合わない目をして、ぐったりと椅子に座っている。
「どした?
やっぱり疲れた?」
「ううん、なんか、なんか、夢みたいやな、って。
僕なんかが……なんか、目が覚めたら全部夢だったりせえへんかな」
笑いながら言う姿が儚げで、胸の奥がギュッとなった。
思わず顔を寄せて、音を立てて彼の下唇を吸ってみる。
「ちょ…っ」
驚いた顔に満足して離れようとしたのに、彼の両腕が背中に回るから、こっちがあわててしまった。
抱かれると、どうしても身長差を感じてしまう。
びっくりして開いた口に、するりと入ってきた舌が優しく動いて、俺を味わっていく。
(こいつ……っ)
なんでこんなキス、うまいんだよ。
悔しくなって、俺も舌を使ったから、キスがどんどん深くなっていく。
やばい、と思った途端、シャツの下から彼の手が入ってきた。
乾いた肌に彼の熱い手が直接触れてくるから、体の奥からぞわぞわする刺激が駆け抜ける。
中心にどんどん熱が溜まっていく。
「…ちょ、おっと、ストップ、ストップ」
「始めたの自分やで?」
「わかってるよ!
でもさ、場所変えよ?
カラオケ屋って、見張りのカメラ入ってたりするし……」
何だか急に恥ずかしくなった。
顔が熱くてたまらない。
「そやな。ほなうち来る?
こっから近いし」
「……夢じゃないって、実感した?」
「続きさせてくれたら実感できそう」
こいつ!
こいつって、こんなヤツだったのか?
焦る俺を見ながら余裕に笑って、
「ほな行こか」
アウターと、部屋のレシートをつかんで立ち上がる。
「なあ?」
「ん?」
「これから、俺たちどうなるか、先の事はわからないじゃん。
ケンカして離ればなれになる事だってあるかもしれないじゃん?
でもさ、今ここで。
おまえと出会えて、こうして一緒にいられる喜びを、花束みたいに胸に抱いて、これからもずっとやっていきたいなって、俺、思うんだ」
俺の言葉を聞いて、一瞬泣きそうな顔をして、花が開くように笑顔になった。
「ありがとう」
彼の笑顔に嬉しくなって立ち上がり、アウターをつかんで彼の手を取った。
「早く行こ」
「待って?」
「なんだよ。いらないのかよ?」
「いるよ! いります!」
ふたりで笑い合った。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。