第7話

You are my blood. ③
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2021/04/15 23:59




     ☆



なかなか2人になれない。


俺が実家暮らしだからだし、みんなが彼と遊びたがるからだし、何より彼が独りになりたがるからだ。

彼の部屋に上げてもらった事が、実はまだない。

狭いし汚いから、って言うけど、それは関係ないでしょ。

俺と過ごすの、嫌なのかな、って不安になってくると、そばにやってきて、みんなの目を盗んで触ってきたりする。

えへへ、って、茶目っ気たっぷりに笑うのがかわいくて、胸より腰の辺りがぎゅん、てなる。


まったくもう。


やっぱり独り暮らし始めるしかないか、って思って、それを口にしたら、絶対反対、ってマジ怒り。

俺と俺の分身は、一体どうすりゃいいの?






     ☆ ☆



やっばぁ。

独り暮らし始めよっかな、なんて言い出すから、ついヤメロって怒っちゃったよ。

あぶねーあぶねー。

あいつ、無自覚だかんな。

こっちはハマらないように、精一杯踏ん張ってんのに、なんか知んないけど、アッという間にうまくなりやがって。


俺のこと好きすぎ。


俺に対する探究心と研究心、ハンパないじゃん。
興味下がるどころか増す一方じゃん。


だいたい触りかたがエロいんだよ。

優しくて優しくて、すごく大事にされてるってわかる。
最初はたどたどしくて、もどかしかったのに、今じゃすぐに追い詰められちゃう。
そしてそっからが長い。
寸止めで愛撫を続けるから、爆ぜさせて欲しくなってねだってしまうパターン、何とかしたいよな。
しかもあいつ、明らかにそれ、楽しんでるし。


逆だったはずなのに、おかしいって。
オレじゃなくて、あいつがねだるはずだったのに。


どこで聞いてきたんだか、最近じゃキスしたままひとつになりたい、とか言い出して、こっちの体のメンテナンスしないまま応えられるわけないだろ。
おまえを汚したらどうすんだよ。

オレの知る限り1番デカイの持ってるし、うっかりあんなの挿れられたら、次の日練習になんないじゃんか。






     ☆ ☆ ☆




やっぱりムード作りも大事だよね。

それだけが目当てって思われちゃって、引かれてんのかもしんないよね。
おうちに行きたいとかって、やるだけデートになっちゃうって思われたのかも。

そんな事ないんだけど、確かに外なら、ご飯食べたり話したり、それ以外のコミュニケーションちゃんと取れるもんね。



ふたりでボーカルレッスン最初の組になった日。

彼をメインにして、俺が高音でハモるパターンと、俺メインで彼が低音でハモるパターン、両方やった。

自分で言うのも何だけど、すごくいい。
堅い鋼鉄のつるぎに、たおやかな花がまつわりついていく感じ?
あるいは、水鳥が遊ぶそばに、水量豊かな滝が落ち、さえずり、木々のざわめき、跳ねるしぶきに虹がかかる、感じ?


いい。


すごく気持ちいい。


メンバー誰とも相性良くて最高だけど、俺達、絶対最高だ。


次の組と交代して少し早く終わったから、高ぶった気持ちのまま、渋谷スカイに誘ってみた。
谷底になった渋谷の地形に建てられた展望台で、東京全体を一望できる。
高層ビルの間に点在する緑の塊。
千代田の城跡は隠れてるけど、案外森が多い。


「わぁスッゴ!」


嬉しそうに目を輝かせる彼に、ほら、東京タワー、スカイツリー、新国立競技場、あれが代々木体育館、って案内する。


「武道館は?」


見えるかなぁ、あっちだよ。

ふいに飛行機がおなかを見せて現れたから、あっちが羽田、あそこに海が見えるでしょ、って案内したら、いっそう瞳がきらきら輝く。

海、ほんとに好きなんだなぁ。


頬を撫でる少し強い風が気持ちいい。
目をつぶると、このままフワリと飛んでいきそう。


風を全身で楽しんでいたら、手を握られた。
目を開けると、頬を紅潮させて、彼が俺を見ていた。


「うち、行こ?」


体中の血が一瞬で沸騰した。
声にならなくて、手の中の柔らかな手を強く強く握り返した。







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