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なかなか2人になれない。
俺が実家暮らしだからだし、みんなが彼と遊びたがるからだし、何より彼が独りになりたがるからだ。
彼の部屋に上げてもらった事が、実はまだない。
狭いし汚いから、って言うけど、それは関係ないでしょ。
俺と過ごすの、嫌なのかな、って不安になってくると、そばにやってきて、みんなの目を盗んで触ってきたりする。
えへへ、って、茶目っ気たっぷりに笑うのがかわいくて、胸より腰の辺りがぎゅん、てなる。
まったくもう。
やっぱり独り暮らし始めるしかないか、って思って、それを口にしたら、絶対反対、ってマジ怒り。
俺と俺の分身は、一体どうすりゃいいの?
☆ ☆
やっばぁ。
独り暮らし始めよっかな、なんて言い出すから、ついヤメロって怒っちゃったよ。
あぶねーあぶねー。
あいつ、無自覚だかんな。
こっちはハマらないように、精一杯踏ん張ってんのに、なんか知んないけど、アッという間にうまくなりやがって。
俺のこと好きすぎ。
俺に対する探究心と研究心、ハンパないじゃん。
興味下がるどころか増す一方じゃん。
だいたい触りかたがエロいんだよ。
優しくて優しくて、すごく大事にされてるってわかる。
最初はたどたどしくて、もどかしかったのに、今じゃすぐに追い詰められちゃう。
そしてそっからが長い。
寸止めで愛撫を続けるから、爆ぜさせて欲しくなってねだってしまうパターン、何とかしたいよな。
しかもあいつ、明らかにそれ、楽しんでるし。
逆だったはずなのに、おかしいって。
オレじゃなくて、あいつがねだるはずだったのに。
どこで聞いてきたんだか、最近じゃキスしたままひとつになりたい、とか言い出して、こっちの体のメンテナンスしないまま応えられるわけないだろ。
おまえを汚したらどうすんだよ。
オレの知る限り1番デカイの持ってるし、うっかりあんなの挿れられたら、次の日練習になんないじゃんか。
☆ ☆ ☆
やっぱりムード作りも大事だよね。
それだけが目当てって思われちゃって、引かれてんのかもしんないよね。
おうちに行きたいとかって、やるだけデートになっちゃうって思われたのかも。
そんな事ないんだけど、確かに外なら、ご飯食べたり話したり、それ以外のコミュニケーションちゃんと取れるもんね。
ふたりでボーカルレッスン最初の組になった日。
彼をメインにして、俺が高音でハモるパターンと、俺メインで彼が低音でハモるパターン、両方やった。
自分で言うのも何だけど、すごくいい。
堅い鋼鉄のつるぎに、たおやかな花がまつわりついていく感じ?
あるいは、水鳥が遊ぶそばに、水量豊かな滝が落ち、さえずり、木々のざわめき、跳ねるしぶきに虹がかかる、感じ?
いい。
すごく気持ちいい。
メンバー誰とも相性良くて最高だけど、俺達、絶対最高だ。
次の組と交代して少し早く終わったから、高ぶった気持ちのまま、渋谷スカイに誘ってみた。
谷底になった渋谷の地形に建てられた展望台で、東京全体を一望できる。
高層ビルの間に点在する緑の塊。
千代田の城跡は隠れてるけど、案外森が多い。
「わぁスッゴ!」
嬉しそうに目を輝かせる彼に、ほら、東京タワー、スカイツリー、新国立競技場、あれが代々木体育館、って案内する。
「武道館は?」
見えるかなぁ、あっちだよ。
ふいに飛行機がおなかを見せて現れたから、あっちが羽田、あそこに海が見えるでしょ、って案内したら、いっそう瞳がきらきら輝く。
海、ほんとに好きなんだなぁ。
頬を撫でる少し強い風が気持ちいい。
目をつぶると、このままフワリと飛んでいきそう。
風を全身で楽しんでいたら、手を握られた。
目を開けると、頬を紅潮させて、彼が俺を見ていた。
「うち、行こ?」
体中の血が一瞬で沸騰した。
声にならなくて、手の中の柔らかな手を強く強く握り返した。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。