第9話

You are my blood. ⑤
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2021/04/20 08:31




夜中に目が覚めて、あれ、明日の予定何だっけ?って考える。

ゆっくりでいい日だ、って気付いて、安心して布団にくるまった。


目をつぶると、ステージの事や、新しい楽曲や、今やってるゲームのこと、とりとめなく色んなイメージが浮かんでは消える。


何となく自分に触れた。


途端に、おれに触れるおまえの長い指を思い出す。
おれの中に潜む快感を的確に突いた、おまえの熱量もよみがえった。


奥から、じわりとよみがえる感覚を追いかけて、自然と手が動く。


小さく囁くように、おれにだけ歌ってくれた愛の歌とか。
荒い息の中、切なげにおれの名を呼ぶ時の顔とか。
抱きしめてくる長い腕、からみつく長い足。
体の熱さ。
終わった後の明るい笑顔。


「あれ?」


なんだこれ?

気持ち良さはあるのに、爆ぜるとこまで高まらない。

いったいどうした?

焦っていつものようにこすってみても、刺激が足りない。

いくらやってもだめで、自分をきゅっと握ってみる。

じわりと快感はあるものの、欲しい刺激と違い過ぎて、宙ぶらりんのまま。

こんな事初めてだ。

しばらくやっても解放されないから、あきらめて寝ようとしたのに寝付けない。

ほんとになんなんだよ。

何が起きてる?





翌朝、ゆっくりで良かったのに、さっさと支度して事務所に出かけた。

おれが着いて少ししたら、案の定おまえがやってくる。


「あれぇ、早いねぇ?」


おれを見つけて嬉しそうに笑うから、おれも嬉しくなる。


「おう」


グータッチしようと伸ばした手に当てられたおまえのグー。

満足して引っ込めようとした手を、そのままふわりと握られた。

たったそれだけなのに、得体のわからない柔らかな刺激が全身を駆けめぐる。

何があった?
今、何が起きた?

握られた右手をじっと見てしまったから


「どうしたの?」


心配そうな声に、いや、別にって答えてた。





その日は普通にレッスンだった。

休憩挟んで前後2時間ずつぐらい。
帰りにラジオの収録。

終わってみんなで夕飯食べて帰ろって話になったけど、俺は友達と会う約束があるって言って輪から抜けた。

ほんとは、みんなと一緒にいたい。
おまえと一緒に。

でもどうしても、おまえ無しでも、ひとりでも、大丈夫だって確認したい。




昔の知り合いに連絡した。

一応ちゃんと考えて、口がかたいやつ。

おれが連絡したら、嬉しそうに応じてくれて、ご飯食べて、飲んで、そいつんちに行った。

昔はわくわくするような楽しい情事だったのに、今は何ひとつ良くなかった。

後ろめたさより、触り方やキスの味、俺に埋まるものの質も量も、全然足りなくて、昔はどうしてこれで満足できたのか、全然わからない。
俺の反応があまりに鈍いから、体調悪いの、って聞かれる始末。
ごめん、ごめんな、って謝って、みじめな気持ちで別れて帰る。
情けなさ過ぎて、泣けもしない。




うちに帰ると、ドアの前に長身の影が揺らいだ。
見るなり心臓が大きく跳ねる。


「やぁっと帰ってきた」


「なんだよ、どうしたんだよ」


「様子が変だったから心配で。
明日は午前からだから、泊まりはないって思って待ってたんだ」


俺がカギを開けるのを待って、当然のように一緒に入ってくる。

ドアの内鍵を閉めた途端、優しく抱きしめてきた。
ずっと平らだった心臓が激しく打ち出し、おまえの体臭に混じったフレグランスに、目まいがする。


「大丈夫?
ずいぶん飲んだんだねぇ」


違うよ、おまえのせいだよ。

酔ってると思い込んでふらつく俺をベッドに運び、上着を脱がそうとして、俺の欲望に気付く。
朝から何してもだめだったのに、そこは今にも爆ぜそうだった。


「見んなよ、帰れよ」


背中を向けて隠そうとしたのに、後ろから優しく耳たぶを噛まれる。
それだけでもたまらないのに、おれの名を呼んで体をまさぐるから、我慢できずに押し倒した。


「ちょ、待って」


返事の代わりにズボンを剥ぎ取る。
口の中で、充分な硬さに育つのはあっという間で、俺はそのまま、おまえにまたがった。
俺を心配して、待って待ってってあわててたけど、そんなの聞く余裕ない。
潤滑剤なんかいらないぐらい、俺のそこはほぐれてた。

おまえの最初のたったひと突きで、快感の源に当たり、電流が走る。
続く数回の抽送で、俺はあっという間に爆ぜた。


下から突き上げるもどかしさに、おまえがおれを組み敷く。
終わってても、ずっと気持ち良くて、下からおまえの顔を見ていた。
苦しげに歪むおまえの顔が男らしくて、ずっとどきどきしてた。
おまえが終わるのを待って、抱きつく。
おまえが俺の顔をティッシュで拭くから、自分が泣いてるのを初めて知った。


「どしたのかなぁ?
なんかあったんでしょ?
誰かにいじめられたの?」


「おれ、おれ、だめだ。
もうおまえじゃないとだめになっちゃった。
どうしよう、こんなのやだよ。
こわいよ」


しゃくりあげながら、感情が高ぶって、自分でも何を言ってるのか良くわからない。

おまえはキョトンとして。


「大丈夫、俺ずっとそばにいるって言ったでしょ。
俺は人生賭けてるんだから、嫌だって言っても離れないよ?」


ほんとだろうな。
嘘だったら、絶対許さねえぞ。


「お、まえな、し、で、ヒック、いら、れな、いように、した、責、任取れ、よ?」


泣きながら言うから全然カッコつかない。


「むっちゃくちゃだなぁ」


おまえは明るく声立てて笑った。



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