夜中に目が覚めて、あれ、明日の予定何だっけ?って考える。
ゆっくりでいい日だ、って気付いて、安心して布団にくるまった。
目をつぶると、ステージの事や、新しい楽曲や、今やってるゲームのこと、とりとめなく色んなイメージが浮かんでは消える。
何となく自分に触れた。
途端に、おれに触れるおまえの長い指を思い出す。
おれの中に潜む快感を的確に突いた、おまえの熱量もよみがえった。
奥から、じわりとよみがえる感覚を追いかけて、自然と手が動く。
小さく囁くように、おれにだけ歌ってくれた愛の歌とか。
荒い息の中、切なげにおれの名を呼ぶ時の顔とか。
抱きしめてくる長い腕、からみつく長い足。
体の熱さ。
終わった後の明るい笑顔。
「あれ?」
なんだこれ?
気持ち良さはあるのに、爆ぜるとこまで高まらない。
いったいどうした?
焦っていつものようにこすってみても、刺激が足りない。
いくらやってもだめで、自分をきゅっと握ってみる。
じわりと快感はあるものの、欲しい刺激と違い過ぎて、宙ぶらりんのまま。
こんな事初めてだ。
しばらくやっても解放されないから、あきらめて寝ようとしたのに寝付けない。
ほんとになんなんだよ。
何が起きてる?
翌朝、ゆっくりで良かったのに、さっさと支度して事務所に出かけた。
おれが着いて少ししたら、案の定おまえがやってくる。
「あれぇ、早いねぇ?」
おれを見つけて嬉しそうに笑うから、おれも嬉しくなる。
「おう」
グータッチしようと伸ばした手に当てられたおまえのグー。
満足して引っ込めようとした手を、そのままふわりと握られた。
たったそれだけなのに、得体のわからない柔らかな刺激が全身を駆けめぐる。
何があった?
今、何が起きた?
握られた右手をじっと見てしまったから
「どうしたの?」
心配そうな声に、いや、別にって答えてた。
その日は普通にレッスンだった。
休憩挟んで前後2時間ずつぐらい。
帰りにラジオの収録。
終わってみんなで夕飯食べて帰ろって話になったけど、俺は友達と会う約束があるって言って輪から抜けた。
ほんとは、みんなと一緒にいたい。
おまえと一緒に。
でもどうしても、おまえ無しでも、ひとりでも、大丈夫だって確認したい。
昔の知り合いに連絡した。
一応ちゃんと考えて、口がかたいやつ。
おれが連絡したら、嬉しそうに応じてくれて、ご飯食べて、飲んで、そいつんちに行った。
昔はわくわくするような楽しい情事だったのに、今は何ひとつ良くなかった。
後ろめたさより、触り方やキスの味、俺に埋まるものの質も量も、全然足りなくて、昔はどうしてこれで満足できたのか、全然わからない。
俺の反応があまりに鈍いから、体調悪いの、って聞かれる始末。
ごめん、ごめんな、って謝って、みじめな気持ちで別れて帰る。
情けなさ過ぎて、泣けもしない。
うちに帰ると、ドアの前に長身の影が揺らいだ。
見るなり心臓が大きく跳ねる。
「やぁっと帰ってきた」
「なんだよ、どうしたんだよ」
「様子が変だったから心配で。
明日は午前からだから、泊まりはないって思って待ってたんだ」
俺がカギを開けるのを待って、当然のように一緒に入ってくる。
ドアの内鍵を閉めた途端、優しく抱きしめてきた。
ずっと平らだった心臓が激しく打ち出し、おまえの体臭に混じったフレグランスに、目まいがする。
「大丈夫?
ずいぶん飲んだんだねぇ」
違うよ、おまえのせいだよ。
酔ってると思い込んでふらつく俺をベッドに運び、上着を脱がそうとして、俺の欲望に気付く。
朝から何してもだめだったのに、そこは今にも爆ぜそうだった。
「見んなよ、帰れよ」
背中を向けて隠そうとしたのに、後ろから優しく耳たぶを噛まれる。
それだけでもたまらないのに、おれの名を呼んで体をまさぐるから、我慢できずに押し倒した。
「ちょ、待って」
返事の代わりにズボンを剥ぎ取る。
口の中で、充分な硬さに育つのはあっという間で、俺はそのまま、おまえにまたがった。
俺を心配して、待って待ってってあわててたけど、そんなの聞く余裕ない。
潤滑剤なんかいらないぐらい、俺のそこはほぐれてた。
おまえの最初のたったひと突きで、快感の源に当たり、電流が走る。
続く数回の抽送で、俺はあっという間に爆ぜた。
下から突き上げるもどかしさに、おまえがおれを組み敷く。
終わってても、ずっと気持ち良くて、下からおまえの顔を見ていた。
苦しげに歪むおまえの顔が男らしくて、ずっとどきどきしてた。
おまえが終わるのを待って、抱きつく。
おまえが俺の顔をティッシュで拭くから、自分が泣いてるのを初めて知った。
「どしたのかなぁ?
なんかあったんでしょ?
誰かにいじめられたの?」
「おれ、おれ、だめだ。
もうおまえじゃないとだめになっちゃった。
どうしよう、こんなのやだよ。
こわいよ」
しゃくりあげながら、感情が高ぶって、自分でも何を言ってるのか良くわからない。
おまえはキョトンとして。
「大丈夫、俺ずっとそばにいるって言ったでしょ。
俺は人生賭けてるんだから、嫌だって言っても離れないよ?」
ほんとだろうな。
嘘だったら、絶対許さねえぞ。
「お、まえな、し、で、ヒック、いら、れな、いように、した、責、任取れ、よ?」
泣きながら言うから全然カッコつかない。
「むっちゃくちゃだなぁ」
おまえは明るく声立てて笑った。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。