第11話

Lonely One ②
132
2021/04/23 04:49




彼の胸に散った赤い小さなあざ。
乳首を中心に、愛撫の跡が簡単に想像できた。
Tシャツ着てれば完全に隠れるし、彼が俺にまたがらなければ、もしかしたら、気が付かなかったかもしれない。
さすがに精液はわかんなかったけど、コンドーム使ったのかもしんないし。


あの時は、俺を欲しがる彼の、切迫した欲望が伝わって、俺もすごく興奮しちゃったから。
俺を欲しがってあんまり可愛く泣くから。
胸のあざもきれいだったし、って、俺のばか。


彼がきれいで色っぽいのはいつもの事で、あんな、誰が付けたかわかんないあざのおかげじゃないじゃんか。


気が付かなかっただけで前もあったのかな。
これからも、あるのかな。
誰かと楽しんだ後に……。
求められるってさ。


だけど、それは嫌だ、って、俺、言える?
他のひととするんなら、俺はしない、なんて言える?


いやぁ、言えないな。
そんな、自分の首を絞めるようなこと。
俺はいつだって触れたいし、触れられたいし、それを拒絶するなんて、わざわざ不幸になる選択、できるわけ、ない。


そもそも俺たちって、付き合ってるのかな?
ずっとそばにいるとは言ったけど、俺が。
おまえじゃなきゃダメだって言ってくれたけど、彼が。


正直、こういう経験無さ過ぎて、よくわかんない。
とりあえず、仕事仲間で、一緒に歌って踊って、バラエティも頑張る。
そこだけは確かだから。
プライベートは…あとあと。
あとで考えよう。




何もかも全部棚上げにして、たくさん食べて良く眠る。
1回のライブでかなり体重が落ちちゃって、明らかに頬がこけちゃったから、体重増加を頑張んなきゃ。


それなのに。


夢に出てくるんだよなぁ。
他の誰かにあえがされてる彼が。
俺、そばに行こうとしたけど行けなくて、黙って見てるしかなかった。
うーわ、サイアク。
何、この夢。
夢の中で、夢だってわかって、早く目覚めなきゃって思ってるのに、なかなか目覚めない。
彼のいい顔だけが、色んな角度でアップになって、いくつもいくつも迫ってくる。
おまけに最後に俺を呼ぶんだ。
あの、低くて甘い、少しかすれた声で。



目が覚めたら、喉がカラカラに乾いてて、しかも下着が汚れてた。
こんなこと初めてで、恥ずかしいし情けないし、丸めてビニール袋に入れて、どっかで捨てる事にする。
うちでは捨てられない。




時間は早いけど、落ち着きたくて、とっとと事務所に行った。

また彼がいる。

なんだよ、最近早過ぎ。
いつもなら遅くまでゲームやって、ギリギリでは無いけど、早く来る事なんて無いじゃんか。

少し気まずい気持ちで、


「おはよ、また早いねぇ」


って言いながら拳骨を作って突き出す。
そこに彼の拳骨は返ってこなくて、


「なぁ」


真剣な顔付きだったから、急に怖くなって、荷物を置いてトイレに駆け込んだ。

彼はすぐ俺を追ってきたから、個室に逃げ込んだけど、ドアを閉めるのが間に合わない。


「あれは違うから。
ホントにホントにごめん。
でも、最後までやってないから」


「……途中まではやったんだ」


「おまえとじゃないとできないってわかったから、ホントに。
もうしない、絶対しない」


抱きしめてきた。


「俺にはもうおまえだけだよ、許せよ。
ホントごめん」


うーわ、なんだ、この追い詰められかた。

自分でも混乱して、うっかり許すとか言いそうになったところに、


「ふたりともー、いる?
次の企画の話だってよー?」


呼びに来たメンバーの声。

あわてて、今行くー、とかなんとか言って、急いで彼の腕を振り解いて、個室を出た。

後ろで、気まずそうな彼に、メンバーが、


「こんなとこでやめて下さいよ、丸聞こえじゃないですか」


って言ってるのは、まるで聞こえていなかった。






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