彼の胸に散った赤い小さなあざ。
乳首を中心に、愛撫の跡が簡単に想像できた。
Tシャツ着てれば完全に隠れるし、彼が俺にまたがらなければ、もしかしたら、気が付かなかったかもしれない。
さすがに精液はわかんなかったけど、コンドーム使ったのかもしんないし。
あの時は、俺を欲しがる彼の、切迫した欲望が伝わって、俺もすごく興奮しちゃったから。
俺を欲しがってあんまり可愛く泣くから。
胸のあざもきれいだったし、って、俺のばか。
彼がきれいで色っぽいのはいつもの事で、あんな、誰が付けたかわかんないあざのおかげじゃないじゃんか。
気が付かなかっただけで前もあったのかな。
これからも、あるのかな。
誰かと楽しんだ後に……。
求められるってさ。
だけど、それは嫌だ、って、俺、言える?
他のひととするんなら、俺はしない、なんて言える?
いやぁ、言えないな。
そんな、自分の首を絞めるようなこと。
俺はいつだって触れたいし、触れられたいし、それを拒絶するなんて、わざわざ不幸になる選択、できるわけ、ない。
そもそも俺たちって、付き合ってるのかな?
ずっとそばにいるとは言ったけど、俺が。
おまえじゃなきゃダメだって言ってくれたけど、彼が。
正直、こういう経験無さ過ぎて、よくわかんない。
とりあえず、仕事仲間で、一緒に歌って踊って、バラエティも頑張る。
そこだけは確かだから。
プライベートは…あとあと。
あとで考えよう。
何もかも全部棚上げにして、たくさん食べて良く眠る。
1回のライブでかなり体重が落ちちゃって、明らかに頬がこけちゃったから、体重増加を頑張んなきゃ。
それなのに。
夢に出てくるんだよなぁ。
他の誰かにあえがされてる彼が。
俺、そばに行こうとしたけど行けなくて、黙って見てるしかなかった。
うーわ、サイアク。
何、この夢。
夢の中で、夢だってわかって、早く目覚めなきゃって思ってるのに、なかなか目覚めない。
彼のいい顔だけが、色んな角度でアップになって、いくつもいくつも迫ってくる。
おまけに最後に俺を呼ぶんだ。
あの、低くて甘い、少しかすれた声で。
目が覚めたら、喉がカラカラに乾いてて、しかも下着が汚れてた。
こんなこと初めてで、恥ずかしいし情けないし、丸めてビニール袋に入れて、どっかで捨てる事にする。
うちでは捨てられない。
時間は早いけど、落ち着きたくて、とっとと事務所に行った。
また彼がいる。
なんだよ、最近早過ぎ。
いつもなら遅くまでゲームやって、ギリギリでは無いけど、早く来る事なんて無いじゃんか。
少し気まずい気持ちで、
「おはよ、また早いねぇ」
って言いながら拳骨を作って突き出す。
そこに彼の拳骨は返ってこなくて、
「なぁ」
真剣な顔付きだったから、急に怖くなって、荷物を置いてトイレに駆け込んだ。
彼はすぐ俺を追ってきたから、個室に逃げ込んだけど、ドアを閉めるのが間に合わない。
「あれは違うから。
ホントにホントにごめん。
でも、最後までやってないから」
「……途中まではやったんだ」
「おまえとじゃないとできないってわかったから、ホントに。
もうしない、絶対しない」
抱きしめてきた。
「俺にはもうおまえだけだよ、許せよ。
ホントごめん」
うーわ、なんだ、この追い詰められかた。
自分でも混乱して、うっかり許すとか言いそうになったところに、
「ふたりともー、いる?
次の企画の話だってよー?」
呼びに来たメンバーの声。
あわてて、今行くー、とかなんとか言って、急いで彼の腕を振り解いて、個室を出た。
後ろで、気まずそうな彼に、メンバーが、
「こんなとこでやめて下さいよ、丸聞こえじゃないですか」
って言ってるのは、まるで聞こえていなかった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。