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第9話

【あの夏の終わりはない。】《終》
73
2019/07/30 14:35
〔翌日〕
由井坂さん
由井坂さん
はーい!
それじゃあ昨日の分のシーンから
始めるよ!
松山 ゆいとその母親との
絆を確かめ合うシーン!
いず
いず
はい!
由井坂さん
由井坂さん
いずさーん?大丈夫?
いず
いず
はい!大丈夫です!!
由井坂さん
由井坂さん
(良い顔をするようになったね…)
スタッフ
スタッフ
こっちも準備おっけーです
カメラマン
カメラマン
カメラも確認終わりましたー。
おっけーでーす。
由井坂さん
由井坂さん
よし!それじゃあ、
始めるよ
由井坂さん
由井坂さん
スタート!
いず
いず
お母さん…
ずっと会いたかったっ…!
母親役・女優
母親役・女優
ゆい……っ
ずっとごめんね…
あなたに寂しい思いを
させてしまって…
いず
いず
ううん…っ私は
寂しくなんてなかったのよ?
大切な園のみんなや友達も
たくさんいる…。
いず
いず
だけど…
それを大切なお母さんにずっと
伝えられなかったことが
辛くて…悲しかったの…
いず
いず
幸せなことがたくさんあった…
ずっとお母さんに言いたかったの。
これで…私の思い出も…
こらからのことだって
伝えられるね…
母親役・女優
母親役・女優
本当にごめんなさい…
あなたの父親を亡くしてから
私は立ち直ることができなかった…。
本当に情けないわ…
母親役・女優
母親役・女優
これからはずっと一緒よ…
ゆい…、愛しい私の娘…
いず
いず
うん…そうだね、お母さん。
ずっと一緒に……。
いず
いず
大好きだよ……っ
由井坂さん
由井坂さん
カットッッッ
由井坂さん
由井坂さん
最高だよっ!
良いシーンができた!!
この調子で今日も頑張るよっ
いず
いず
はい!
佐野さん
佐野さん
いず!お疲れ!
今日も頑張ろうね。
佐野さん
佐野さん
本当に…良かったね……っ
いず
いず
佐野さん…ありがとうございます。
だけど私はこれからですよっ!!
そう
そう
ゆいっ!!!
なんでここから居なくなる…?
もう俺がいらなくなったのか?
いず
いず
いく…っ違う!!!
私達は前に進んでいかないと
いけないの……
いく!!!!
私は君がとても大切なんだよ…
そう
そう
……っ
いず
いず
これからだって
私の気持ちは変わらない…っ

ドラマの撮影は順調に進んでいった。

そうの成長もすごいもので
みんなが負けるものかと撮影に取り組み、
周りにも良い影響をもたらしていた。
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由井坂さん
由井坂さん
よし、みんな、
最後のシーンとなります。
由井坂さん
由井坂さん
おっけー?
いず
いず
はい…
そう
そう
大丈夫です。

みんなの息を吸う音が聞こえる。
みんないる…。

体がぞわっとする…
胸が高鳴っているのを感じる。

もう最後だけど…今の私を全てぶつける…
由井坂さん
由井坂さん
スタート!!!!!!
そう
そう
ゆい……?
いず
いず
うん…、
そう
そう
…………
いず
いず
大学の教授とだっけ……?
そう
そう
うん……。
俺…今はそばにいないけどさ…
親父は天文学者だったんだよ。
小さい頃から
家族と星を見て生きてきた。
そう
そう
俺が園に取り残された
理由も知らないし、
どんな理由があっても
そんなことをして良いとは思わない。
いず
いず
そう…だね……
そう
そう
だけど…
この園にきても俺は星のことを…
空のことを…忘れたことはなかった。
勝手なことをする親だったけど
俺に大切なものは残してくれた。
そう
そう
追いかけてみるよ。
いず
いず
いく…らしいと思うよ。
そう
そう
海外の方が
天文は学べることが多い。
天文学者のある人が
俺に声をかけてくれたんだ。
そう
そう
うちの大学の教授も
出張先が近いこともあって
一緒に行くことになった。
そう
そう
急なことになってごめん…
いず
いず
……っ!!
何で謝るの?
自信をもって…
進んでいけば良い。
いくの道なんだから。
笑っていて。
そう
そう
ゆい…が泣いてるからだろ?
いず
いず
こんなに早く離れるなんて
思ってなかったから…
出会ってから…4年ぐらい?
いず
いず
ふふっ………
案外長かったかもね
いず
いず
私ね…いくのことが……っ
そう
そう
まだ…。
俺が帰ってきてから
俺から伝える。
いず
いず
そんなに長く待てないよ…
そう
そう
………
いず
いず
じょーだん!
いつまでだって待ってる。
私、待つのはなれてるの。
だけどそれは最後には
再び会えるのを信じてるから…
だから………っ
いず
いず
約束して…?
そう
そう
あぁ、必ず
━━━ゆいといくの唇が優しく触れた。
     きっとこの先も大丈夫だと強く信じて。
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━━

《《《プルルルルルルッッ》》》

《《《プルルルルルルッッ》》》
そう
そう
はい。湊里です。
いず
いず
あっえっと…そうくんいますか?
そう
そう
あっ僕だよ。
いず
いず
えっ!そうのお父さんかと
思っちゃったよー。
そう
そう
声似てる?
いず
いず
似てる似てる!
ドラマの撮影が終わってから
そうは自分の親について調べ始めた。
すると案外早く発見することができた。

そうの両親の経営する会社が倒産し、
夜逃げ当然で家を出ることになり
大切な息子を急に巻き込みたくはないと
園に引き取ってもらったらしい。
その事実をしったそうは
すこし寂しそうに、だけどスッキリした顔で
『そんなことか、』と笑っていた。
そうがまだ幼い頃に
身勝手にも親の責任を放棄し
園に引き取ってもらっていたため、

そうの実の両親は今更行けないと
そうに会いに行くのを
何年もためらっていたらしい。

そうは、また新しく家族を始めると
晴れやかな顔で園長さんに伝え、
もとの家族へと戻っていった。
私もそうも…変に絡まって
なかなかもとに戻ることは出来なかった。

子供を置き去りに
するなんてあってはならないこと。

だけどそれを踏まえた上で
私達は改めて家族を始めていく。
いず
いず
(私達は進んでいかないと。
園のことや寂しい思いをしている
子供たちのことも…
私達や園のみんなで
ちゃんと伝えていきたい。)
いず
いず
そうだ!ていうか
私が家の電話にかけてるのは
そうが、携帯を水没させたとかが
原因なんだから…
さっさと買ってもらいなよ?
そう
そう
あぁ、うん!そうするよ、
で、電話はドラマの放送について?
いず
いず
そうそう!
第1話の放送見た?
そう
そう
もちろん。だけど、
僕もまだまだだなって
実感した。
いずには全く敵わない。
いず
いず
あたりまえじゃない?
この世界でそうはまだ、
なにも始まってないんだから。
いず
いず
そうは、たまたま人とは違う順番で
ドラマに採用されたけど
本当はあり得ないんだからね!
そう
そう
それは…もう、
心得てますよ
いず
いず
よろしい!
いず
いず
それでね、今年の夏に
私が所属している事務所の
〔新人発掘オーディション〕
があるんだけど…
そう
そう
うん、
いず
いず
そう、受けてみない?
そう
そう
僕が?
いず
いず
もちろん。
私はそうには才能があると思う。
まだまだ努力も足りないし
人に見せれたものではないけど
あのドラマの現場にいた人は
みんな感じたと思う。
そう
そう
そんなことは……
いず
いず
みんな、いつそうが
この業界に入ってきて
共演できるのか…って
待ってるんだよ!!
そう
そう
………っ
いず
いず
ね!またあの夏のように
挑戦してみない!?!!!!
そう
そう
機会があるなら
もちろん挑戦したい!
僕もいずの見ている世界を
もっと見てみたいから。


撮影が終わり家族との問題も一時解決した頃、

ドラマ関係者の集りで
私はそうと再び会う機会があった。

その時のそうの瞳は
出会った頃よりも多くの光を宿していた。


そう
そう
僕も必ず皆の元へ辿り着く。
きっとこれからも
そうの輝きは増す一方で…

その瞳にももっと多くの光を宿していくだろう。
いず
いず
私も負けてられない…
またまだだね、
そう
そう
……うん?
今、なんか言った?
いず
いず
ううん!なんでも!
今度は同じ仕事場で役者の“そう”と
出会いたいな。
そう
そう
うん、必ずね。
覚悟して待ってて、
そう
そう
izu!!!



次に会うときのそうは
さらに綺麗になってるのかと思うと
楽しみでもあるし恐ろしくもある。
今は……そうの目指す先に
輝くizuが立っているように。

私は頑張り続けないといけない。
あのあつい夏は
私達にとって一生心に残るものとなった。
これから先も、もっと先へ進んでいけるように
私達は伝えていかないといけないことも
たくさんある。
みんなそれぞれ特別な何かを持っていて
まだそれにみんな気づけていない。
私達があの夏に
得たものはとても大きいことだった。
人から言われる特別は
確かに自分自身にも大切なものだった。

それをあの夏気づくことができた。

けれどその特別なものを持っていることは
自分にとって幸せなんだと感じるのには
とても時間がかかるし、難しいことだとも思う。



一人じゃないよ、大丈夫。
周りをみればみんながいるって…
私はみんなに伝えていきたい。


『君が持っているものには
ちゃんと意味があるんだよ』って。
これから先も繋げていこう。

あの夏のことも。

家族のことも。

私の体験したことも。

私達の思いも。

子供たちのことも。

わくわくすることも。

胸が高鳴ったことも。




大切なことなにもかも…。
いず
いず
(まだまだ……私達は
こらからも進んでいって
物語は続いていくから。)
いず
いず
あの夏だけでは終わらせない。
               END

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