第3話

【一歩。】
88
2018/11/30 12:46
[ひなた園での
ドラマ撮影の話を聞いた日から一週間後]
━━━━監督との面会
佐野さん
佐野さん
いず!監督の由井坂さんは、
明るいし、気さくな方だから
そんなに緊張しなくても大丈夫!
佐野さん
佐野さん
という僕も
朝から心臓がうるさいけど…
いず
いず
はい…
いず
いず
でもやっぱり、
監督さんですし
これからの話をたくさんする、
大切な機会でもありますし…。
ひなた園の暖かさを伝える
チャンスですから
更に緊張します……。
佐野さん
佐野さん
だよね…?
でもいずなら大丈夫だよ!
僕もアシストするから!
よし、それじゃあそろそろ
時間だから、会議室に移ろう。
いず
いず
はい!
いず
いず
(佐野さんや事務所の社長
から聞いた監督さんの話はどれも、
印象の良いものが多かったから、
大丈夫だと思う)
いず
いず
(ひなた園のことを
しっかり伝えられると良いな…)
佐野さんからドラマ撮影の話を聞いたあの日の夜、
ひなた園の園長さんに会いに行った。

最初は驚いて、
みんなの生活にも影響がでるのでは…?
そういうドラマで園のことが伝わるのは
良いことだとは思うけど、
みんなが傷ついてしまったら嫌だな…
など、複雑な思いを話していた。
けれど、私の思いや監督についての話。
話の方向性などを説明していくうちに
園長さんも首を縦にふってくれた。
いず
いず
(園長さんの不安な顔が
消えなかったら
監督に相談して
ひなた園での撮影を無くすよう
提案してみようとも思っていたけど
みんなのおかげだな…っ!)
園長さんが了解してくれたのも
園のみんなの影響が大きかったのだと思う。

私が園長室にはいってから
園の子達が盗み聞きをしていたらしくて、
園長さんがなかなか了承しないのにうずうずして
「やりたい!」とみんなが出てきたのだ。
いず
いず
(あのあと、盗み聞きのことで
叱られていたけど、
本当に嬉しかったな…)
いず
いず
(みんなのためにも…
見てくれる人たちのためにも…
制作関係者の方々のためにも。
もちろん、自分のためにも
良いものにしていきたい!!)
佐野さん
佐野さん
よし、いず!
そろそろ時間だから
監督が来るよ。
いず
いず
ドキドキしますね…
佐野さん
佐野さん
ぼっ僕、
変じゃない?
いず
いず
大丈夫ですよ!
私も大丈夫ですかね?
佐野さん
佐野さん
大丈夫!
いつもどおり可愛いよ!
いず
いず
佐野さんって…
すごいですよね。ほんと…
ふふっ。
なんだか和みました。
由井坂さん
由井坂さん
失礼しまーす
佐野さん
佐野さん
っ!!!
由井坂さん!
こちらの席へどうぞ。
由井坂さん
由井坂さん
あ、はい。
ありがとうございます!
いず
いず
(髭も整えられてて、
服もおしゃれで、男らしい人だな…
優しい顔をしてる。)
由井坂さん
由井坂さん
えっと、いずさんは、
初めましてだよね?
由井坂 透といいます。
社長には良くしてもらってて、
いずさんのこともよく聞いてました。
由井坂さん
由井坂さん
佐野さんとは一度
話させてもらってます。
いず
いず
社長さんとは
どういう関係で?
由井坂さん
由井坂さん
禁断の…恋ともうしますか…
いや…っこれ以上は……っ
佐野さん
佐野さん
っ!由井坂さん!
冗談はやめてください。
いずは、信じますよ?
いず
いず
佐野さん!さすがにっ!!
佐野さん
佐野さん
うちの社長とは
大学の先輩後輩の関係らしいよ。
由井坂さんが、
2つ年下の後輩らしいです。
由井坂さん
由井坂さん
そっ!そう。
というわけだから
改めてよろしくね。
いず
いず
はい!
よろしくお願いします。
佐野さん
佐野さん
まずは、
ドラマのストーリー構成
についてですが…
由井坂さんの方では大まかに
決まっているんでしたよね?
由井坂さん
由井坂さん
おう、そうそう。
由井坂さん
由井坂さん
あらすじは、こう……
そういうと由井坂さんはゆっくりと語り始めた。
由井坂さん
由井坂さん
舞台は子供たちが生活している
児童養護施設『そら園』
主人公の少女、松山 ゆいは
3歳の頃から
そら園で生活をしている。
そんなゆいが
入園の日から14年経つある日、
とある少年が入園してきた。
由井坂さん
由井坂さん
少年は金色の髪に
深い緑の瞳を持つ、
変わった容姿をもつ子だった。
澄んだ色でとても綺麗。
けれど、その髪や瞳が珍しいせいで
ひどく傷ついた様子だった。
由井坂さん
由井坂さん
少年は
ある日突然、少年の親の
行方が分からなくなり
そら園に入園することになったのだ。
由井坂さん
由井坂さん
そんな傷ついた少年と
不安を抱く少女との
幸せを見つけるお話。
由井坂さん
由井坂さん
とまぁ、こんな感じよ
いず
いず
(すごい…作り込まれてるな…
思わず聞き入ってしまった…。)
いず
いず
すごいですね…
早く台本が見たいです。
由井坂さん
由井坂さん
いずさんには
主人公の少女、松山 ゆいを
演じてもらいたいです。
いず
いず
はい。
全力で演じさせていただきます。
由井坂さん
由井坂さん
他のキャスティングは
大体目星つけてるから、
正式に決まったらまた報告します。
佐野さん
佐野さん
では、
撮影の日程についてなのですが…
由井坂さん
由井坂さん
それね、
明明後日にはドラマの広告を
公開するつもりでいる。
PVなど詳しい内容のものは
もう少し先に発表するけどね。
てことで、広告撮影は明後日に決行。
キャストは
明日までには完全に固める。
由井坂さん
由井坂さん
そして、ドラマの撮影開始は
今日からちょうど1ヶ月後の
8月1日から。
枠を社長権力で急にねじ込んだから
時間がない。
だけど、良いものには必ず仕上げる。
無理を言ってるのは分かってるけど
お願いできる?
佐野さん
佐野さん
由井坂さんっ!!
いずは今とても忙しくて、
1ヶ月後の日程なんて
とっくに埋まってます。
明後日の広告撮影も
昼間、2・3時間あるだけで
午前も午後も仕事があります。
そんな、急な…
由井坂さん
由井坂さん
うん……
いず
いず
佐野さん!
私なら大丈夫です。
1ヶ月からの日程は
今からでもこなせるものも
前倒しでお願いするか、
ずらしてもらえるように
私自身も交渉します。
いず
いず
由井坂さん!
日程のことは大丈夫です。
ですが、
必ず良い仕事をするよう、
約束してくださいませんか?
由井坂さん
由井坂さん
あぁ、ありがとう。
約束しよう!
━━━こうして、
   由井坂さんとの初めての面会は終わった。
いず
いず
(今までこの業界で
頑張ってきたのが
報われるかもしれない。
8月の仕事も今までよく
お世話になった会社が多い。
ここは、頑張りどころかな。)
━━━━━━━
━━━

いず
いず
園長さーん!
泉でーす!
園長さん
園長さん
あら!
いずちゃんいらっしゃい!
園長さん
園長さん
昼間なのに珍しいわね!
いず
いず
今日はもう仕事がないんです!
午前中に、ドラマの件で
打ち合わせがあっただけだったので。
園長さん
園長さん
そうなのね!
園長さん
園長さん
だったら、お昼を食べていって!
今日はカレーなのよ!
いずちゃん、
うちのカレー好きでしょ?
いず
いず
はい!大好きです!!
食べていきます!!
いず
いず
それで、ドラマの撮影なのですが、
1ヶ月後から開始になるそうです。
園長さん
園長さん
あらあら、そんなに
急なものなのね?
夏休みに入るし
こちらは大丈夫だけれど
いずちゃんは忙しいんでしょう?
大丈夫なの?
いず
いず
このドラマの撮影を
一番楽しみにしているのは
私なんですよ!
大丈夫です。
ありがとうございます。
園長さん
園長さん
あらまぁ、
大人になって…
成長なんて早いものね…
感動しちゃったわ…
いず
いず
もう!いちいち感動なんて
大袈裟だよ。
園長さん
園長さん
そうそう!敬語なんて良いのよ。
家なんだから。
いず
いず
ありがとう…。
ところであそこの銀髪の男の子は?
今まで見たことあったっけ。
園長さん
園長さん
あぁ、そう くんね。
園長さん
園長さん
いずちゃんと入れ違いで
入ってきた子なのよ。
もう、来てから長いけど
いずちゃんは夜遅くでしか
仕事でこれないから
会ったことがなかったんだろうね。
そうくん、高校2年生だし
部活もあってご飯の時間ぐらいしか
タイミング合わないかもね。

今日はたまたま学校が休みだから
園にいるんだけど。
いず
いず
だからか…。
いず
いず
綺麗な髪と瞳…
銀髪に深い海の青の瞳……。
園長さん
園長さん
そうよね。
みんな綺麗だっていってるのに、
最近、そうくんは思春期なのも
あるとおもうんだけど、
一年ぐらい前にもとの親が一度
顔を見に来たときから
優しい性格だったのに
乱暴な物言いになっちゃって…
園長さん
園長さん
今はみんな見守ってるのよ。
根はとても良い子だから
きっと大丈夫ね。
園長さん
園長さん
ドラマの撮影もあるし、
いずちゃんもいるし、
何か良い風が吹くと良いねって
みんなと言ってたところよ。
園長さん
園長さん
あ!だから
彼の容姿を中途半端に褒めちゃうと
今は地雷だから、
控えてた方が良いわ!
いず
いず
そう…なん…ですか……。
いず
いず
(なんだか他人事にも
思えなかったのは
由井坂さんの物語の少年と
共通点があったからかもしれない。)



園長さんの「そう」という少年の話が
少し遠くに聞こえてくるほど




私は彼の美しい色に目が奪われていた。

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