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第11話

呼び方を変えたいんだけど
アルバイトから上がったのが、十九時過ぎ。


片付けを手伝っていたら、いつもより遅くなってしまった。


店の裏口を出て、歩道を数歩行った先――アーチ状の車止めに、腰掛けている人物が目に入る。
早乙女 雪乃
早乙女 雪乃
(帰ったはずじゃ……!?)
足は長いし、風にそよぐ髪は柔らかそう。


憂鬱そうにスマホを触りながら誰かを待っている姿は、ただ座っているだけなのにモデルポーズのように様になっている。


そんな水瀬くんを、通りすがりの女子たちが振り返っては「今の人、かっこよかった」「イケメン!」と騒いだ。


私がびっくりして足を止めていると、気配に気付いた水瀬くんが顔を上げる。


視線がぶつかるなり、彼は嬉しそうに笑った。
早乙女 雪乃
早乙女 雪乃
ど、どうしたの?
忘れ物でもしたの?

自分の知る限りではそんなものはなかったと思いながら駆け寄ると、水瀬くんは笑って空を仰いだ。
水瀬 悠
水瀬 悠
マジか。
会長、ほんと鈍すぎ

水瀬くんはまたまた吹き出した。


散々鈍いだの、面白いだの、頻繁に笑われているのがしゃくに障る。


私が両頬を膨らませると、彼はそれを両手で包み込むようにして優しく潰した。


ぷすっと、程よい空気音が聞こえて、私もつい笑ってしまいそうになるのを堪える。
水瀬 悠
水瀬 悠
一緒に帰ろうと思って、待ってたんだよ
早乙女 雪乃
早乙女 雪乃
一緒に、帰る?

そんなことを優しい顔で言うものだから、再びキュンとしてしまった。


悔しくて、無意識に視線を逸らしてしまう。
水瀬 悠
水瀬 悠
お? 照れてる?
早乙女 雪乃
早乙女 雪乃
照れてない!

顔が赤ければ説得力はないけれど、ここは認めちゃいけない。


覗き込んでくる視線から逃げるように、顔を背ける。


ちらっと横目で様子を窺えば、水瀬くんはにこにこしている。
早乙女 雪乃
早乙女 雪乃
(冷たくしてるのに、なんで嬉しそうなんだろう)

先週の金曜日は『デート』という名目上、仕方なく家まで送ってもらったけれど、今回はどういう風の吹き回しだろう。


この人の考えていることは、相変わらず分からない。
早乙女 雪乃
早乙女 雪乃
来るなら来るで、先に言ってよね
水瀬 悠
水瀬 悠
だって、サプライズで来た方がおもしろいじゃん
早乙女 雪乃
早乙女 雪乃
あなたの主観は聞いてないの。
私が迷惑を被るの
水瀬 悠
水瀬 悠
あはは。
本当に、迷惑だった?
響希もいたのに?
早乙女 雪乃
早乙女 雪乃
それ、は……。
その聞き方はずるくない?

水瀬くんは会話の数個先を読んでいるんじゃないかと、たまに思う。


そんな他愛のない会話をしながら、私たちはいつの間にか帰路についていた。
早乙女 雪乃
早乙女 雪乃
(一緒に帰るって、彼氏と彼女なら当然のことなのかなぁ……)

距離が離れるどころか、どんどん近づいていることへの恐怖。


でもそれ以上に、水瀬くんを近くに感じて、楽しいと思ってしまう自分の心。


どうすべきかは、頭では分かっているはずなのに。
水瀬 悠
水瀬 悠
あのさ。
呼び方を……さ、変えたいんだけど
早乙女 雪乃
早乙女 雪乃
え?

世にも奇妙な現象って、人にも起こるのだろうか。


水瀬くんは口元に手を当て、ひどく目を泳がせながら落ち着かない様子で言った。


【第12話へつづく】