第12話

最初の答え合わせ
1,892
2020/02/15 09:00
水瀬 悠
水瀬 悠
いや、だってさ。
俺はずっと『会長』呼びだし、それはおかしくない?
早乙女 雪乃
早乙女 雪乃
そう?
水瀬 悠
水瀬 悠
いや、おかしいって。
彼女を会長呼びとか。
……響希には呼び捨てを認めてるんだから、俺もいいよな?

水瀬くんの視線はまだ定まらない。


何をそんなに動揺しているのか分からないけれど、一時的な関係に、呼び方の変更が本当に必要なのだろうか。


これ以上、距離が縮まることには、さすがに抵抗があった。
早乙女 雪乃
早乙女 雪乃
そこまでする必要ある?
水瀬 悠
水瀬 悠
あるの。
会長もさ、俺のこと『水瀬くん』じゃなくて、下の名前で呼んでよ
早乙女 雪乃
早乙女 雪乃
え!?
それは……なんかなぁ
水瀬 悠
水瀬 悠
響希のことは呼んでるじゃん。
お前らのは、本来なら、付き合ってる者同士の方が自然な呼び方なんだからな?
俺たちだって、変えた方が自然になる

水瀬くんの力説に押され、私は渋々ながら頷いてしまった。


彼は言質げんちをとって安心したのか、ほっと息を吐く。
水瀬 悠
水瀬 悠
じゃあ、練習な。
雪乃
早乙女 雪乃
早乙女 雪乃
うっ……慣れない
水瀬 悠
水瀬 悠
俺はもちろん問題ないけど、雪乃も呼んで?
早乙女 雪乃
早乙女 雪乃
は、はる、悠くん……

響希くんの時はどうやって呼び方を変えたのか、全く覚えていない。


今回は強烈に記憶に残りそうなくらい、恥ずかしかった。


何度目かの練習の後、水瀬くんは更に要求を増やしてくる。
水瀬 悠
水瀬 悠
よし、もう一声!
『くん』はいらないな
早乙女 雪乃
早乙女 雪乃
えっ?
水瀬 悠
水瀬 悠
呼び捨て、してみ?
早乙女 雪乃
早乙女 雪乃
は……悠?
水瀬 悠
水瀬 悠
うん

思っていたより、意外としっくりきた。


遠慮がとれた分、呼びやすくなったのかもしれない。


水瀬くん、もとい悠は、呼び捨てを確認するなり満面に笑みを浮かべた。


しかし――呼び方を変えたことで、歯車がひとつ、狂ってしまったのかもしれない。


悠はそっと私の手を取って、握りしめた。
早乙女 雪乃
早乙女 雪乃
……!?
いやっ!!
水瀬 悠
水瀬 悠
!!
あっ……ごめん。
悪気は、なかった

驚いた私は、悠の手を思い切り振りほどいてしまった。


さっきまで笑っていた悠は、一瞬にして、傷ついた表情を見せる。


そんな表情をさせてしまったことに、胸の奥が痛むけれど、ここが明確な線引きなのかもしれない。
早乙女 雪乃
早乙女 雪乃
こういうのは、なんか……違う。
手を繋ぐって、きっともっと大事なことだよ
水瀬 悠
水瀬 悠
……うん、そうだよな。
ごめん。
今のは完全に俺が悪い

私の正直な気持ちを、悠も察して謝ってくれた。


けれど、私たちの間にあった不思議と和やかな雰囲気は、壊れてしまった。


しばらくの沈黙の後、悠が口を開く。
水瀬 悠
水瀬 悠
放送室で言ってた俺の考えって、まだ当てられそうにない?

唐突な質問に、私は頷いた。


下手に不正解を出せない都合上、まだ挑戦できていない。
早乙女 雪乃
早乙女 雪乃
回答チャンスが無限だったら、何回でもチャレンジするんだけど……
水瀬 悠
水瀬 悠
残念。
お手つきは一回までだ

調子を取り戻そうとしているのか、悠が肩をすくめて言う。


その声も表情も、なんだか私の胸を締めつけた。
早乙女 雪乃
早乙女 雪乃
(そろそろ、『その時』なのかもしれない)

意を決して、もっとも自信のある考えをまとめる。


彼の言動を総合すれば、これが一番可能性が高い。
早乙女 雪乃
早乙女 雪乃
はい、分かった!
やっぱり、私をからかって面白がってるんだ!

私の一回目の挑戦は、果たして正解なのか。


【第13話へつづく】

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