一瞬の迷いはあった。
さっきは嫌だと突っぱねた手前、今更という気持ちもある。
けれど、もう嫌だとは思わなかったのだ。
水瀬くんに差し出されたポテトを、そのまま口にくわえて食べると、水瀬くんはなぜか視線を横に逸らした。
水瀬くんの言い方は苦しげで、しかもその顔は少し赤い。
私はさあっと青ざめた。
さっきまで苦しんでいたはずの水瀬くんは、首を横に振って笑い出した。
今度は私の顔が引きつる番だ。
水瀬くんが頷き、私は両手で顔を覆った。
顔が熱い。
水瀬くんが笑う声がして、きっとこれもリップサービスだと思うのだけれど。
本気にしないようにと努めても、やっぱり嬉しかったらしい。
家に帰ってからも、勉強机に向かいながら、時折頬が緩んでしまった。
『氷姫』と呼ばれている自分にも、かわいくなれるチャンスはあるのか。
いつか、響希くんに振り向いてもらえるのだろうかと、期待してしまう。
彼が何を思って私と付き合っているのか。
彼の考えていることを当てて、いずれ別れなければならない。
チャンスは二回だから、慎重に。
最初は、からかっているだけだと思っていたけれど。
人にバラされたくないような秘密を私には明かしてくれたり、素で照れていたりと、単なる遊びだけだとは思えない面も出てきた。
モデルもこなせて、学校では少なからず女子生徒に好かれているようだし、彼が私なんかを好きになるはずがない。
間違えて告白されたのをきっかけに、楽しんでいるだけなのが、濃厚だ。
***
週が明けて、月曜日。
今日は生徒会の挨拶運動があるから、早めの登校をする日だ。
教室には既に響希くんが来ていた。
いつもと変わらない響希くんの笑顔に、私もつられて笑ってしまう。
そして、久しぶりのふたりきりの教室は、安心するのと同時に、なんだか少しドキドキして。
日常が戻ってきたような感覚。
響希くんの傍が、私にはしっくりきて、一番落ち着く。
そう思っていると、水瀬くんが隣のクラスからやってきた。
【第10話へつづく】
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。