帰り道を歩いていると、少しずつ気持ちが落ち着いてくる。
響希くんにも、花屋にも迷惑をかけて、私は何をやっているのだろう。
泣き止んでしばらくすると、響希くんが隣で穏やかに笑う気配がした。
遠慮がちな響希くんの問いかけに、もう全部白状してしまおうかと、心が揺れる。
私と悠の間に起こった出来事は複雑すぎて、説明には骨が折れるだろう。
それに、私が響希くんを好きだったということも、暴露しなければならなくなる。
悠をこれ以上傷つけたくないし、あの出来事は私たちだけの秘密にしておきたい、とも思う。
だから、言いかけて、止めた。
首を横に振って謝ると、響希くんは納得したように頷いた。
私は跳ねるように顔を上げ、酷く狼狽えた。
響希くんは私の反応に首を傾げて、目を丸くしている。
あの告白を聞いていたのだから、「私が悠を好き」だと彼が勘違いしているのは、当然のことなのに。
いや、違う。
私の好きな人は、今目の前にいる響希くんだ。
訂正したくても、それがいざ告白となると、響希くんにも周囲にも切り替えの早い女だと思われるだろう。
かといって、全てを洗いざらい説明する選択肢は、私にはなかった。
私が否定しないので、彼は沈黙を肯定と受け取ったらしい。
これは、優柔不断だった私への罰だ。
今は甘んじて受け入れるしかない。
話の流れがおかしい。
聞き間違いでなければ、響希くんは私たちの関係に嫉妬していたことになる。
私が聞き返している間に、彼は足を止め、私と正面から向き合う姿勢をとった。
神様は、どうしてこんな悪戯をするんだろうか。
【第19話へつづく】
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。