第18話

神様の悪戯
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2020/03/28 09:00
帰り道を歩いていると、少しずつ気持ちが落ち着いてくる。


響希くんにも、花屋にも迷惑をかけて、私は何をやっているのだろう。


泣き止んでしばらくすると、響希くんが隣で穏やかに笑う気配がした。
黒須 響希
黒須 響希
ちょっとは落ち着いた?
早乙女 雪乃
早乙女 雪乃
うん……。
ごめんね
黒須 響希
黒須 響希
いいよ。
でも、やっぱり、気になるから。
何があったか聞いてもいい?
話せる部分だけでも……

遠慮がちな響希くんの問いかけに、もう全部白状してしまおうかと、心が揺れる。


私と悠の間に起こった出来事は複雑すぎて、説明には骨が折れるだろう。


それに、私が響希くんを好きだったということも、暴露しなければならなくなる。


悠をこれ以上傷つけたくないし、あの出来事は私たちだけの秘密にしておきたい、とも思う。


だから、言いかけて、止めた。
早乙女 雪乃
早乙女 雪乃
……ごめんね。
気持ちだけ、ありがとう

首を横に振って謝ると、響希くんは納得したように頷いた。
黒須 響希
黒須 響希
そっか。
本当に、悠のことが好きなんだね
早乙女 雪乃
早乙女 雪乃
……え

私は跳ねるように顔を上げ、酷く狼狽えた。


響希くんは私の反応に首を傾げて、目を丸くしている。


あの告白を聞いていたのだから、「私が悠を好き」だと彼が勘違いしているのは、当然のことなのに。
早乙女 雪乃
早乙女 雪乃
(私が、悠を……好き?)

いや、違う。


私の好きな人は、今目の前にいる響希くんだ。


訂正したくても、それがいざ告白となると、響希くんにも周囲にも切り替えの早い女だと思われるだろう。


かといって、全てを洗いざらい説明する選択肢は、私にはなかった。
黒須 響希
黒須 響希
やっぱり……そうなんだ。
ちゃんと、本物だったんだね

私が否定しないので、彼は沈黙を肯定と受け取ったらしい。


これは、優柔不断だった私への罰だ。


今は甘んじて受け入れるしかない。
黒須 響希
黒須 響希
最初はまさか、ふたりが付き合うなんて何かの間違いじゃないのかって思ってたんだ。
だって、雪乃は悠を少し苦手そうに見てたし、悠も雪乃に積極的には関わろうとしてなかった
早乙女 雪乃
早乙女 雪乃
それは……そうなんだけど
黒須 響希
黒須 響希
でも、ふたりが楽しそうにしてるところを見て、安心するのに……なんか、もやっとして。
雪乃が楽しそうに笑えてよかったなって思ったら……悠に、めちゃくちゃ嫉妬した
早乙女 雪乃
早乙女 雪乃
……ん?
えっ?
黒須 響希
黒須 響希
それで、『ああ、俺もはっきりしないといけない』って思えたんだ

話の流れがおかしい。


聞き間違いでなければ、響希くんは私たちの関係に嫉妬していたことになる。


私が聞き返している間に、彼は足を止め、私と正面から向き合う姿勢をとった。
黒須 響希
黒須 響希
好きだよ。
全然自分に自信がなくて、でもそれをいつも努力でカバーしようって気を張って。
健気に頑張ってる、雪乃が好きだ

神様は、どうしてこんな悪戯をするんだろうか。


【第19話へつづく】

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