私がそう言っても、誰ひとりとして手を挙げようとはしない。
五月の生徒総会は、滞りもなく淡々と進んでいく。
特に関心もなさそうに床を見つめる生徒、近くの者同士で小突き合っている生徒もいれば、居眠りをしている生徒も。
司会担当である副会長の響希くんがそう言うと、やっぱり熱のこもっていない拍手が起こった。
それでも、私が言うよりはましだ。
うっとりとして彼を見守る女子の多いことは、よく知っているから。
壁際に設置された生徒会席に私が戻るなり、風紀委員長の水瀬悠が穏やかに笑う。
この何事にも動じない性格が、ちょっと羨ましくもあり、苦手でもある。
私だって、好き好んで生徒会なんてやってない。
でもなんとかそれをこなせているのは、響希くんのサポートがあるからこそ。
前方のスクリーンには、ふたつ先のスライドが映し出されている。
パソコンの前に待機する二年生の役員に、ジェスチャーで合図をするものの、全く気付いてくれない。
見かねた響希くんが言うと、その役員はようやく気付き、慌てて修正してくれた。
情けなさも余裕のなさも、自覚している。
それでも、引き受けたからにはやり遂げたい。
そんな私の気持ちを、響希くんはこうして自然に支えてくれるのだ。
***
他愛のない話をしながら、響希くんと一緒にクラスへと戻る。
生徒会長と副会長という組み合わせながら、クラスメイトが反応するのは――。
――男女問わず、響希くんだけ。
私は、視線すらも合わせてもらえない。
どうやら私は、周囲から完全無欠の生徒会長だと思われているらしい。
女子からも距離を置かれて、いつの間にか『氷姫』なんてあだ名がつけられていた。
確かに色白だし、あまり笑わないし、愛想よくするタイプでもない。
昔からよく「大人っぽい」と言われるのも、敬遠される理由のひとつかもしれない。
HRが終わるとすぐ、近くの席の女子生徒たちがそんな話を始める。
中学でのぼっち経験を繰り返さないはずが、より一層孤独が増している気がする。
響希くんが、彼女たちと私の間を取り持とうとしてくれる。
過去に一度だけ、「普通の女子高生みたいなことをしてみたい」と私が話したからだ。
女の子たちの苦笑いが、グサリと刺さる。
そこには敬遠だけじゃなく、私が響希くんと親密な関係にあることへの嫉妬が含まれていた。
悔しくて、そうばっさりと断ったのに、内心では残念だった。
友達が全くいないわけではないけれど、気兼ねなく一緒に遊べるような女の子は、私にはいない。
放課後になり、再び体育館へと戻ると、水瀬くん他数名の役員が既に片付けを始めていた。
彼らの話題を耳にして、私の目は自然と響希くんに向いた。
二年前の生徒会選挙で知り合って、長い時間を一緒に過ごしてきたつもりだ。
それがもう残り少ないと分かると、急に寂しくなってくる。
響希くんが笑って首を傾げる姿が胸を締めつけ、つい頬が熱くなった。
【第2話へつづく】
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。