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第1話

好きな人と苦手な人
早乙女 雪乃
早乙女 雪乃
今年度の生徒会予算については、以上です。
何か質問のある方は、挙手をお願いします

私がそう言っても、誰ひとりとして手を挙げようとはしない。


五月の生徒総会は、とどこおりもなく淡々と進んでいく。


特に関心もなさそうに床を見つめる生徒、近くの者同士で小突き合っている生徒もいれば、居眠りをしている生徒も。
黒須 響希
黒須 響希
では、賛成の方は拍手をお願いします

司会担当である副会長の響希ひびきくんがそう言うと、やっぱり熱のこもっていない拍手が起こった。


それでも、私が言うよりはましだ。


うっとりとして彼を見守る女子の多いことは、よく知っているから。
水瀬 悠
水瀬 悠
毎年毎年、こんな長ったらしく説明するのって面倒だね。
会長?
早乙女 雪乃
早乙女 雪乃
しっ……先生方に聞こえるでしょ
水瀬 悠
水瀬 悠
へいへい

壁際に設置された生徒会席に私が戻るなり、風紀委員長の水瀬みなせはるかが穏やかに笑う。


この何事にも動じない性格が、ちょっと羨ましくもあり、苦手でもある。


私だって、好き好んで生徒会なんてやってない。


でもなんとかそれをこなせているのは、響希くんのサポートがあるからこそ。
早乙女 雪乃
早乙女 雪乃
(えっと、次の議題は……。あれ、原稿どこだっけ? って、スライドが違う!)

前方のスクリーンには、ふたつ先のスライドが映し出されている。


パソコンの前に待機する二年生の役員に、ジェスチャーで合図をするものの、全く気付いてくれない。
黒須 響希
黒須 響希
えー、スライドの準備中なので、もう少しお待ちください

見かねた響希くんが言うと、その役員はようやく気付き、慌てて修正してくれた。
早乙女 雪乃
早乙女 雪乃
(少しパニックになると、もうダメだ……しっかり、自分!)

情けなさも余裕のなさも、自覚している。


それでも、引き受けたからにはやり遂げたい。


そんな私の気持ちを、響希くんはこうして自然に支えてくれるのだ。



***


黒須 響希
黒須 響希
雪乃、お疲れさま。
無事に終わったね
早乙女 雪乃
早乙女 雪乃
……うん。
あとは片付けだけだね

他愛のない話をしながら、響希くんと一緒にクラスへと戻る。


生徒会長と副会長という組み合わせながら、クラスメイトが反応するのは――。
男子生徒
響希、お疲れー
女子生徒
響希くんが司会じゃなかったら、私たち退屈で寝てるよ

――男女問わず、響希くんだけ。


私は、視線すらも合わせてもらえない。


どうやら私は、周囲から完全無欠の生徒会長だと思われているらしい。


女子からも距離を置かれて、いつの間にか『氷姫』なんてあだ名がつけられていた。


確かに色白だし、あまり笑わないし、愛想よくするタイプでもない。


昔からよく「大人っぽい」と言われるのも、敬遠される理由のひとつかもしれない。
女子生徒
ね、駅地下にスイカジュースのお店できたの知ってる?
女子生徒
それ行きたいと思ってた!

HRホームルームが終わるとすぐ、近くの席の女子生徒たちがそんな話を始める。
早乙女 雪乃
早乙女 雪乃
(いいな……。私だって、そういう高校生活ができるかもって、思ってたのに)

中学でのぼっち経験を繰り返さないはずが、より一層孤独が増している気がする。
黒須 響希
黒須 響希
楽しそうだね。
ねえ、雪乃も一緒に行ってきたら?

響希くんが、彼女たちと私の間を取り持とうとしてくれる。


過去に一度だけ、「普通の女子高生みたいなことをしてみたい」と私が話したからだ。
女子生徒
え……でも、生徒会が忙しいでしょ?
女子生徒
それに会長って、女子よりも響希くんと一緒がよさそうだし……

女の子たちの苦笑いが、グサリと刺さる。


そこには敬遠けいえんだけじゃなく、私が響希くんと親密な関係にあることへの嫉妬が含まれていた。
早乙女 雪乃
早乙女 雪乃
確かに今日は、総会の後片付けと文化祭の準備もあるから。
気を遣わなくていいわ

悔しくて、そうばっさりと断ったのに、内心では残念だった。


友達が全くいないわけではないけれど、気兼ねなく一緒に遊べるような女の子は、私にはいない。
黒須 響希
黒須 響希
雪乃、なんか……ごめん
早乙女 雪乃
早乙女 雪乃
響希くんが謝ることないよ

放課後になり、再び体育館へと戻ると、水瀬くん他数名の役員が既に片付けを始めていた。
黒須 響希
黒須 響希
悠、こっち持つよ
水瀬 悠
水瀬 悠
助かる。
それにしても、次の文化祭が高校最後なんてな
黒須 響希
黒須 響希
ああ、早いよな

彼らの話題を耳にして、私の目は自然と響希くんに向いた。
早乙女 雪乃
早乙女 雪乃
(響希くんと過ごせる時間も、あと少ししかないんだ……)

二年前の生徒会選挙で知り合って、長い時間を一緒に過ごしてきたつもりだ。


それがもう残り少ないと分かると、急に寂しくなってくる。
黒須 響希
黒須 響希
雪乃、どうかした?

響希くんが笑って首を傾げる姿が胸を締めつけ、つい頬が熱くなった。


【第2話へつづく】