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第8話

開き始める扉
数秒間、ポテトと水瀬くんを交互に見たけれど、どう考えても食べさせようとしている。


これで食べてしまったら、なんだか負けのような気がして、私はそっぽを向いた。
早乙女 雪乃
早乙女 雪乃
い、いらない……!
水瀬 悠
水瀬 悠
恥ずかしがる必要ないって。
女子同士でもよくやってるじゃん
早乙女 雪乃
早乙女 雪乃
でも、私には友達が少ないし。
あ、そんな経験がないからって、からかってるんでしょ?
水瀬 悠
水瀬 悠
いや?

少しキツい言い方になってしまったかと思ったけれど、水瀬くんは嫌な顔ひとつせず、むしろ楽しそうに笑っている。


彼は手を引っ込めて、「もったいない」とでも言いたげに肩をすくめながら、ポテトを食べ続けた。
早乙女 雪乃
早乙女 雪乃
(やっぱり……この人の考えていることが分からない)

私の間違い告白を、敢えて受け止める意図。


モデルの仕事を、私には見せてくれた理由。
早乙女 雪乃
早乙女 雪乃
(私をからかって、楽しんでいるだけ?)

一方で、学校では見せなかった水瀬くんの楽しそうな笑顔に、不思議と胸の奥がうずく。


響希くんを前にした時とも違う、この感情は一体なんなのか。
早乙女 雪乃
早乙女 雪乃
(モデル業も合わせると、本当にたくさんの顔を持っている人だな……)

私でなくても、水瀬くんと付き合いたいと思う子はたくさんいるはずなのに。


こうなった現状が、どうしてもうまく飲み込めない。
水瀬 悠
水瀬 悠
撮影、見てて楽しかった?

水瀬くんの言葉に、我に返る。


こればかりは、素直に認めたかった。
早乙女 雪乃
早乙女 雪乃
凄かった……と思う。
かなり。
鳥肌も立った
水瀬 悠
水瀬 悠
……だろ?
早乙女 雪乃
早乙女 雪乃
食べながら話すのやめたほうがいいよ?
水瀬 悠
水瀬 悠
ふふ

水瀬くんはハンバーガーを頬張りながら、満足そうに笑う。
早乙女 雪乃
早乙女 雪乃
なんで、撮影現場を見せてくれたの?
水瀬 悠
水瀬 悠
なんでって……。
彼女だからじゃん。
彼女には、自分の格好いいところを見せたいって、男なら誰でも思うものだろ?

意外な質問とでも言いたげに、目を丸くして水瀬くんは答えた。


不意に、心臓が跳ねる。
早乙女 雪乃
早乙女 雪乃
(単純に、その思いだけで見せてくれたの?)

いずれ別れる相手にもかかわらず、だ。


変に騒ぐ胸をどうにかしたくて、私は質問を続けた。
早乙女 雪乃
早乙女 雪乃
……いつから、モデルをやってるの?
水瀬 悠
水瀬 悠
五歳から。
もちろん雑誌は変わったけど、同じ出版社で長く使ってくれてありがたく思ってるよ
早乙女 雪乃
早乙女 雪乃
へえ……

それこそ、小さいころは『花瀬カミル』という名前とかわいい顔のせいで、女の子に間違えられることが多かったらしい。
早乙女 雪乃
早乙女 雪乃
本名も、名前だけだとどっちか分からないよね
水瀬 悠
水瀬 悠
ほんとそれ。
中性的なのは別にいいんだけど、訂正するのめんどい。
まあ、こうしてファッション雑誌のモデルができることは誇りなんだけどね
早乙女 雪乃
早乙女 雪乃
ふーん……

勝手に髪型を変えて怒られたこと、読者の人気投票企画で一位をとれなくて悔しかったこと、気に入った衣装を買い取ったら響希くんも同じものを持っていたこと。


そんな裏話なんかも聞くうちに、少しずつ、少しずつ――私は彼に興味持ち始めていると自覚した。


私にはない、自信に溢れた彼の話は面白くて、ついつい笑ってしまう。
早乙女 雪乃
早乙女 雪乃
ふふっ……なにそれ

家族の前でも、クラスメイトの前でも、あまり笑うことなんてないのに。


自分でもびっくりしていると、再びフライドポテトが目の前に差し出される。
水瀬 悠
水瀬 悠
はい。
最後の一本

水瀬くんの顔は、とても穏やかだった。


【第9話へつづく】