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第10話

クーデレ女子の仮面が剥がれる時
水瀬くんには、悪気はないのかもしれない。


もうすぐ挨拶運動のために、下に降りなければならないのだから、顔を見に来ただけだ。


今までにもそういうことはあったし、仕方ないのに。
早乙女 雪乃
早乙女 雪乃
(もう少し、ふたりきりでいたかったのにな……)

それでも、内心がっかりしてしまう。
水瀬 悠
水瀬 悠
響希。
うちの親が、今度響希のとこの花屋に花束を頼みたいって言ってた
黒須 響希
黒須 響希
お、ほんと? お買い上げありがとうございます

気を許しあっている友達同士、彼らは年頃の男子っぽくじゃれ合う。
黒須 響希
黒須 響希
悠は土日もバイト?
水瀬 悠
水瀬 悠
ああ、うん。
金曜日に会長を見学で連れてったら、土日に質問攻めにあったわ

響希くんの動きが、一瞬止まる。
黒須 響希
黒須 響希
へえ。
本当に、随分と仲がいいね。
なんで、今までそういうところを見せなかったの?

そう言って笑っているけれど、きっと疑問に思っているはずだ。


私だって、特に交流もなさそうなふたりが急に付き合いだしたら、疑うに決まっている。
早乙女 雪乃
早乙女 雪乃
(まずい……。どんどん引き返せなくなってる)

早いところ誤解を解きたいのに、今は「水瀬くんと仲がいい」という嘘を否定も肯定もできない。
水瀬 悠
水瀬 悠
会長が恥ずかしがり屋でさ。
学校では近づくなって言うから

私が黙っているのを察してか、水瀬くんが取り繕ってくれた。


こうやって、嘘が増えていく。
黒須 響希
黒須 響希
そうなのか。
別に、俺にくらいは教えてくれてもよかっただろ?
水瀬 悠
水瀬 悠
それはごめんって

この嘘は、傷が浅いうちに早く終わらせないといけない。


そのためにはまず、水瀬くんと別れなければ。
早乙女 雪乃
早乙女 雪乃
(考えを当てなきゃ別れないって、今考えてみても横暴よね!?)

それでも学校にいるうちは、そんな機会はやってこない。


放課後は生徒会の仕事を終えて、そのままアルバイト先のカフェへ向かった。


今日は他の人の代わりでシフトに入ることになっていたのだ。


二年前に始めたので、仕事にはかなり慣れているけれど、忙しい時はどうしても笑顔が消えてしまう。


特に十七時を過ぎると社会人が急増するので、ホールも厨房も慌ただしくなるのだ。
女性スタッフ
女性スタッフ
早乙女さおとめさん、三番オーダー行ける?
早乙女 雪乃
早乙女 雪乃
はい!

客の切れ間がないくらい、こんな忙しい時に、意外な人物はやってくるもので。
早乙女 雪乃
早乙女 雪乃
いらっしゃいま……せ
水瀬 悠
水瀬 悠
やあ
早乙女 雪乃
早乙女 雪乃
やあ、じゃないでしょ! なんで、ここを……!

水瀬くんが、制服姿で客として入ってきた。
早乙女 雪乃
早乙女 雪乃
私、ここのことは言ってなかったよね?
水瀬 悠
水瀬 悠
響希に教えてもらった
早乙女 雪乃
早乙女 雪乃
…………

仕事に戻らなければという気持ちと、水瀬くんがニヤニヤしているのが気になるのとで、私はその場から動けなかった。


遅れて響希くんがやってきたことで、私の意識はようやくそちらを向く。
黒須 響希
黒須 響希
雪乃、ごめん。
悠がどうしても行ってみたいって聞かなくて……

彼らふたりは、生徒会の仕事を切り上げた後、ここへ向かってきたのだそうだ。
黒須 響希
黒須 響希
忙しい時間に、ほんとごめんね。
一杯飲んだらすぐに出て行くから
早乙女 雪乃
早乙女 雪乃
わ、分かった……!
黒須 響希
黒須 響希
ありがとう

響希くんの笑顔を見ると、つられて笑ってしまう。


この人の優しさは、私にとっての癒やしだ。


でも、なんだかいつも通りに笑えていない気がする。
水瀬 悠
水瀬 悠
おい。
笑顔が引きつってんぞー
早乙女 雪乃
早乙女 雪乃
……!

横から伸びてきた水瀬くんの手に、頬をつねられる。


私がむっとして睨むと、水瀬くんは怒るどころか嬉しそうに笑った。
水瀬 悠
水瀬 悠
むっとする余裕があるなら大丈夫だな。
残り時間、頑張れ
早乙女 雪乃
早乙女 雪乃
……え。
う、うん

まさかの応援に、不覚にも胸の奥がキュンとしてしまった。


【第11話につづく】