悠は大きく頷いた。
そこに嘘はないと、私は信じるしかない。
悠がまた笑ってくれたことに安堵しつつも、一方で、追い込まれた現状に焦りが生まれる。
いくら鈍い鈍いと言われても、彼がひねくれ者でないことは、薄々感じ取っていた。
ならば、一度は打ち消した可能性――『私のことが好き』という答えが浮かび上がってくる。
でも、それを口には出せない。
もしもそれで間違えたら、恥ずかしいどころではないし、私は彼と別れられなくなってしまう。
私が考え込んでいる間、悠はずっと隣を歩いていたけれど、多くを語ることはなかった。
家に着く前、悠が何かを呟いていたようなのだけれど、車の走行音が邪魔をして、聞き取ることができなかった。
***
約二週間後、生徒会室。
文化祭を目前に控え、準備が本格的に慌ただしくなってきた。
忙しくなると、途端に思考回路が飛んでしまう。
役員には、いつも的確な指示出しができていなくて、本当に申し訳ない。
こんな時も、響希くんは支えてくれる。
他の作業をしていたはずの響希くんが、すかさず資料を確認して役割を振っていった。
私も退任するまでにはこうなりたいのに、自信はどんどん萎んでいく。
幾度となく、この優しさに支えられてきた。
染み入る温もりにジーンとしながらも、作業をひとつひとつ潰していく。
作業をしながら、私も自ら声を出して、連日の準備で疲れているみんなを鼓舞した。
それだけでも、私がここにいる意味があると思うから。
心なしか、みんなが元気になってきた気がして、嬉しかった。
その時ふと、視線を感じて、横を振り返る。
悠が手を止めて、私をじっと見つめていた。
温もりのこもったその視線に、ドキリとする。
あの日以来、まだ二回目の回答に挑戦できていなくて、関係はぎこちないままだ。
憎まれ口を叩き合っていると、響希くんが急に声を上げた。
【第14話へつづく】
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。