水瀬くんの判断が正解だったと分かるまで、時間はかからなかった。
私たちが放送室を出てすぐに、私の担任教師と、教頭が足早に駆けつけてくる。
学校でここまで叱責を受けるなんて、初めてのこと。
自分のしでかしたことの重大さを、思い知る。
水瀬くんは悪びれもせず、堂々としている。
ぺこぺこと頭を下げている私とは、正反対だ。
その場はとにかく謝って過ごした。
けれど、いざ生徒会室に向かい始めると、校舎のあちこちの窓から男女問わず生徒たちが顔を出してこちらを見ている。
囃し立てる声、驚く声に混ざって、ショックを受けている女子も少なからずいる。
水瀬くんは苦手だけど、外見は結構整っているし、細身で背も高い。
爽やか系の響希くんとはまた違う、アンニュイな雰囲気を纏っている。
彼をいいなと思う子、好きな子もいて当然だ。
また一層、女子生徒には距離を置かれてしまう。
怖くて俯きがちに歩いていると、背中をとんっと指で叩かれた。
犯人は、水瀬くんだ。
普段はぼんやりしているし、考えていることもよく分からない水瀬くんが、こんな風に励ましてくれることがあるなんて。
人を気遣う心が、彼にもあるのだ。
今まで、何を考えているか分からないからという理由で避けていたことを、少しだけ反省した。
***
生徒会室に着き、水瀬くんがそう声をかけるなり、役員たちの視線が一斉にこちらへ向いた。
みんな手を止め、愛想笑いを浮かべる。
響希くんも、なんと声をかけていいか分からないようで、気まずそうな顔をしていた。
思わず後ずさりしそうになる。
私が目を泳がせている間にも、水瀬くんは平然と中に入っていき、今日の作業分担をホワイトボードで確認した。
彼はそうしてみんなの反応を窺い、頷いた彼らににっこりと笑いかける。
私を手招きするので、仕方なく近くへ行くと、急に肩を抱き寄せられた。
腕を振りほどいて逃げようとするけれど、力が強くて叶わない。
そんな状況でも、役員のみんなからは、祝福の拍手が起こった。
そこまで言って、ぐっと黙る。
ここで事情は説明できない。
勘違いを解くために言ったことが、更なる混乱を招くことになるからだ。
響希くんが私たちの元へやってきて、祝ってくれたけれど、その頬が少し引きつっている。
彼の感情に興味はあっても、もちろん聞くことは不可能だ。
ため息が出そうになるのを我慢したけれど、会議にも資料作成にも身が入らない。
水瀬くんに、額を小突かれた。
額を押さえながら響希くんの方をちらっと見やると、彼は珍しく真顔で作業をしていた。
【第6話へつづく】
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。