第65話

無一郎の過去
11,532
2020/04/03 01:28
あなた

お疲れ様無一郎!

時透無一郎
時透無一郎
あなたもおつかれ
相変わらずの好評だったよ
あなた

ふふっ
それは嬉しいなぁ

あなた

そういえば、炭治郎くんたちあっという間に無一郎の所も突破したんだって?

時透無一郎
時透無一郎
うん。
すごい速さだった
あなた

無一郎なんやかんや面倒見いいからなぁ
弟の面倒見てるお兄ちゃんって感じだったよ

時透無一郎
時透無一郎
っ………
あなた

無一郎………?
ごめん、兄弟の話、嫌だった?
前もお兄ちゃんみたいって言ったら、そんな表情してたから……

時透無一郎
時透無一郎
っ……いや…そういう訳じゃ………
ただ………
あなた

………無理に言わなくてもいいよ?

時透無一郎
時透無一郎
あなただって、辛い過去の話してくれたじゃん……
僕だけ黙ってるのはどうかと思うし
あなた

……分かった。
けど、辛くなったら、その話は直ぐに止めてよ?
約束

時透無一郎
時透無一郎
分かってるよ
じゃあ……話すね
無一郎目線────



僕が生まれたのは、八王子の木こりの家族だった


僕には双子の兄がいて、名前は"有一郎"
でも、10歳の時、母親は肺炎で死亡


父親は、崖から転落死


10歳で、兄とのふたり暮らしが始まった
時透有一郎
時透有一郎
情けは人の為ならず
誰かの為に何かしても、ろくな事にならない
その日は秋で、森にはイチョウの葉が舞っていた
時透無一郎
時透無一郎
違うよ
時透無一郎
時透無一郎
人の為にすることは、巡り巡って自分の為になるって意味だよ
父さんが言ってた
時透有一郎
時透有一郎
人の為に何かしようとして死んだ人間の言うことなんて当てにならない
時透有一郎
時透有一郎
あんな状態になってて薬草なんかで治るはずないだろ
馬鹿の極みだね
時透無一郎
時透無一郎
そんな言い方するなよ!
あんまりだよ!!
時透有一郎
時透有一郎
俺は事実しか言ってない
うるさいから大声出すな
猪が来るぞ
時透有一郎
時透有一郎
無一郎の無は"無能"の"無"
こんな会話意味が無い
結局過去は変わらない
時透有一郎
時透有一郎
無一郎の無は"無意味"の"無"
時透無一郎
時透無一郎
………( o̴̶̷᷄﹏o̴̶̷̥᷅ )


兄は言葉のキツイ人だった


記憶の無い時の僕は、何だか兄に似ていた気がする
そんなある日、ひとりの来客があった


御館様こと、産屋敷耀哉様の御内儀のあまね様だ
あまりに美しいので、僕は初め、白樺の木の精かと思った
あまね様は、僕らが日の呼吸の剣士の子孫である


そして、剣士にならないかと話を持ちかけた


けど、兄は暴言を吐いて、あまね様を追い返した
その日の夜
時透無一郎
時透無一郎
ねぇ!
剣士になろうよ!
時透無一郎
時透無一郎
鬼に苦しめられてる人たちを助けてあげようよ!
すると兄は、すごい音で、大根を切り出した


まるで、怒りに任せて包丁を使っているようだった
時透無一郎
時透無一郎
………
時透有一郎
時透有一郎
お前に何ができるって言うんだよ!!
時透有一郎
時透有一郎
米もひとりで炊けないような奴が剣士になる?
馬鹿も休み休み言えよ!!
時透有一郎
時透有一郎
本当にお前は父さんと母さんにそっくりだな!!
時透有一郎
時透有一郎
具合が悪い事を言わないで働いて体を壊した母さんも
嵐の中薬草なんか採りに行った父さんも
時透有一郎
時透有一郎
あんなに止めたのに!!
母さんにも休んでって言ったのに!!
時透有一郎
時透有一郎
人を助けるなんて事はな!
選ばれた人間にしかできないんだ!!
時透有一郎
時透有一郎
先祖が剣士だったからって子供の俺たちに何ができる?
時透有一郎
時透有一郎
教えてやろうか?できること!
犬死と無駄死にだよ!
父さんと母さんの子供だからな!!
時透有一郎
時透有一郎
結局はあの女に利用されるだけだ!
何か企んでいるに決まってる!
この話はこれで終わりだ!
いいな!!さっさと晩飯の支度をしろ!
時透無一郎
時透無一郎


それから、僕と兄は口を聞かなくなった


あまね様は、何度も通ってくれた


兄はそんなあまね様に水をかけた


その時、久々に喧嘩をした
そして、ある夜


その日は扉を開けて眠っていた


そしたら、鬼が入ってきた
直ぐに兄が襲われ、左の腕がちぎられていた


激しい怒りで、目の前が真っ暗になった


でも、気がつけば鬼は死にかけていた


だけど頭が潰れても死ねないらしく、苦しんでいた


"早く戻らないと………"


そう思っても、体が鉛のように重くて、動かなかった


やっとの思いで家に着いた


そこには、血塗れで倒れてる兄、有一郎の姿があった
時透無一郎
時透無一郎
(兄さん……生きてる………兄さん……)
時透有一郎
時透有一郎
……神…様……仏…様……
どうか……弟だけは……助けてください…
弟は……俺と…違う…心の優しい…子です…
人の……役に……立ちたいと…いうのを……俺が…邪魔した……
時透無一郎
時透無一郎
ポロポロ
時透有一郎
時透有一郎
わかって……たんだ…
本当は……
無一郎の"無"は……"無限"の"無"なんだ…


その言葉を最後に、兄さんは息を引き取った─

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