無一郎目線────
僕が生まれたのは、八王子の木こりの家族だった
僕には双子の兄がいて、名前は"有一郎"
でも、10歳の時、母親は肺炎で死亡
父親は、崖から転落死
10歳で、兄とのふたり暮らしが始まった
その日は秋で、森にはイチョウの葉が舞っていた
兄は言葉のキツイ人だった
記憶の無い時の僕は、何だか兄に似ていた気がする
そんなある日、ひとりの来客があった
御館様こと、産屋敷耀哉様の御内儀のあまね様だ
あまりに美しいので、僕は初め、白樺の木の精かと思った
あまね様は、僕らが日の呼吸の剣士の子孫である
そして、剣士にならないかと話を持ちかけた
けど、兄は暴言を吐いて、あまね様を追い返した
その日の夜
すると兄は、すごい音で、大根を切り出した
まるで、怒りに任せて包丁を使っているようだった
それから、僕と兄は口を聞かなくなった
あまね様は、何度も通ってくれた
兄はそんなあまね様に水をかけた
その時、久々に喧嘩をした
そして、ある夜
その日は扉を開けて眠っていた
そしたら、鬼が入ってきた
直ぐに兄が襲われ、左の腕がちぎられていた
激しい怒りで、目の前が真っ暗になった
でも、気がつけば鬼は死にかけていた
だけど頭が潰れても死ねないらしく、苦しんでいた
"早く戻らないと………"
そう思っても、体が鉛のように重くて、動かなかった
やっとの思いで家に着いた
そこには、血塗れで倒れてる兄、有一郎の姿があった
その言葉を最後に、兄さんは息を引き取った─
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。