無一郎目線────
僕は今、走っている
ひとつの可能性を信じて
ひたすら森の中を、あなたを抱いて
記憶が戻らなくても、命を助けたい
だから、あの人に聞けばきっと……
話したのは少しだけど、僕の中では有力だ
あなたの顔色がだんだんと悪くなっている
息も上がって、絶え絶えだ
とにかく時間が無い
あなたの時間だけ止められたらどれだけいいか
いや、考えても無駄だ
今はとにかく走れ
僕は迷わず、刀を抜いた
そして、長い髪を切り落とした
その刀も放り投げた
もうあとは、腰の日輪刀だけだ
もしあの類の鬼が生きていて遭遇したら終わり
でも、そんなことは頭になかった
聞いた話によると、この刀鍛冶、
元は有能な医者らしい
薬や治療が効きすぎるあまり、化け物と言われ……
街を追い出されたらしい
それに、元鬼殺隊の光柱らしい
なら、何か助ける術はあるはず
そう思った
その時、髪に着いていたらしい
黄色い花が落ちてきた
反り返った花びらが数枚、後から落ちてきた
それは、黄色の水仙だった
花びらがあなたの手に落ちた時だった
僅かに握られた手が動いた
そして、その人は
ゆっくりと目を開け、僕をまっすぐ見つめた
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。