『 なんかあった?最近 』
「えっ?」
『 まあ、勘だけど 』
ドラマの撮影ももう終盤。
ふいに彼に言われて正直、びっくりした。
だって最近は間違いなくいつも通りの私を演じていたはずなのに、見破られていたから。
もしかしたら恭平と駿以外のメンバーにもバレてたんかな、って怖くなる。
ドラマの相手役の彼とは結構の信頼関係が築けてきて、この人になら話せる気がして。
「…好きな人がいたんやけど、失恋しちゃった、」
アイドルなのに、こんなこと話してよかったのかな。
…意識低いとか思われちゃうかな。
話しておいて少し、勝手に寂しくなった。
『 そっか、だから可愛くなったのか 』
「……えっ、!?」
『 …まぁ元々可愛いけど』
スタッフさんに出番です、と声をかけられて、それだけ言い残して颯爽と去ってしまうから呆然とする。
あの初めてのキスシーンからかなり打ち解けて、割とふざけたり憎まれ口を叩いたり叩かれたり、、そんな感じの関係だった彼からこんな形で褒められるなんて照れくさくて。
急いで私も彼の後を追う。
…もしかしたら私は恭平と彼を重ねているのかも知れない。
そんなことを考えながらスタンバイに入る。
ドラマの中では、正真正銘の最後のキスシーン。
このキスでお別れするという、視聴者からしたらまさかの結末。
いや、私にとっても。
…まあ数年後に2人が再会するシーンまで撮るから結果ハッピーエンドなのだけれど。
今のこの2人にとってはこれが最後のキスで、お別れの合図なんだ。
監督の掛け声と共に、ガラッと変わる空気。
見つめあって、吸い込まれるみたいに重なる唇。
そのまま何度もふわりと重なって、ゆっくり目を閉じた。
……浮かんでくるのはやっぱり恭平だけで。
あの唇の薄さと、温かさと………泣きたくなるくらいの愛おしさ。
ほんとに大好きだったんだ。
ずっと近くにいて、気づくのに時間がかかってしまったけど、すごくすごく好きだった。
つーっ、、と静かに伝わっていく涙を感じながら、長い長いキスをした。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。