だ、誰なんだろうこの人は。凄く背が高いし、体つきも良いから威圧感があった。目付きの鋭さも相まって。
その人は「怖がらなくても良いさ」と妙に優しい声で話した。貼り付けられたような笑みに少し怖くなってしまう。
緊張したあまり日本語が全く出てこなかった私はつい母国語で話してしまった。なんだか分からないけど、「この人は怪しい」と本能が警告を鳴らしていたからだ。
だけど、この人はギリシャ語が分かる人ではなかったらしい。そもそもギリシャ語が分かる人を見たことがないけれど…。
訝しげな顔をした男の人は、眉をひそめて「悪いね、それはどこの言語だい?」聞いた。
そう言ってまた微笑んだ男の人。怖いのか優しそうなのかよく分からなくなってきた。だけど初対面だから怪しいには怪しい。
取り敢えず今日は……散歩するからって言ってもう別れよう。やっぱりちょっと怖いし、あんまり長い間外にいるのもあれだし…。
だ、ダメだ…離れることが出来ない…!離れようとしたのに寧ろ近付かれた!しかも上手いこと言いくるめられてしまったし…。
仕方がない、今日はこの人に案内してもらおう。来週からは学校に行くのだし、今のうちにこの辺りのことを知っておいて損はないだろう。
少し下を向いて歩いていると、その人は早速英語で話しかけてきた。
緊張して英語すら上手く話せなくなってしまったらしい。普段はもっと冷静に話せるはずなのにな…。
だけど、正体の分からない人と話すのは怖かった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!