第15話
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夢主視線
幸葵くんと一緒に途中まで帰った家には、誰もいなかった。
まだ哀音も帰っていないらしい。
幸葵くんがうちの庭に興味を持ってくれて嬉しい。
春子さんの緑化委員意識改革案も、実はちょっと嬉しかったりする。
やっぱり仲間が増えるのはいい。
夏帆さんの態度や幸葵くんと春子さんの間のばちばち感が気になるところだが、なんとかやっていけるだろう。
花に水をやったり土の状態を見たりしながら、みんなと花を囲むのを想像する。
楽しげな風景だった。
夏にちゃんと咲くだろうか、向日葵は。
ちゃんと咲いたら、記念撮影しよう。
幸葵くんに見せるんだ。
大学。僕は進学しないことに決めている。
趣味を発展させて花屋になろうと考えていた。
ちょうど花屋をやっている伯父もいるから。
そう考えると、僕はやはり普通の高校生からは遠いのだろうか。
それよりただいまでしょ、と哀音に微笑みかける。
哀音は苦笑いを潜ませ、小さくただいまと言った。
中学生に答えを求めるのは難しいかと思ったが、哀音は悩む表情から一転。
名案を思いついたように手を打つ。
夕暮れの方に目をやりながら、苦笑混じりにこぼす。
そう言ってくれる弟は可愛いけれど、やっぱり難しいと思う。
僕も小学生の頃ずっと一緒にいようと誓った子たちがいたが、高校進学に当たって見事にばらけてしまった。
それに、僕らは一度転校を経験している。
ずっと一緒というのが難しいのを、身をもって知っているのだ。
そう諭しても、哀音は頑として譲らない。
知的な印象の哀音とはかけ離れた幼子のような表現を微笑ましく思う。
哀音は恥ずかしかったのか、わやわやと言い訳を並べ立てるが顔が赤い。
哀音が唸って黙ったところで、中に入ろうと促した。
哀音の部屋で机を付き合わせていると、哀音がふと不満そうにこぼした。
匂い、とは?本当に犬なのか我が弟は。
哀音はまだ納得していない顔で、自分の手元に目線を落とす。
右手がくるりと器用にシャープペンシルを回した。
宿題のプリントをつまらなさそうに見ながら、哀音が吐露する。
随分と複雑なことを考えているようだ。
確かに血縁という意味での哀音の兄は僕しかいないし、僕の弟もきっと哀音しかいないだろう。
それは揺るぎようのない事実だ。
それなのに、なぜ哀音は不安げな顔をするんだか。