第10話
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幸葵くんにラブレターが来るのは、仕方ないことだと思う。
顔もいいし成績もいいし、きっとその傍らに立つことができただけでもいいことずくめだろう。
女子が狙うのもわかる。
男の僕でも、綺麗な人だなぁと思うくらいだ。
ついでに言うと、夜空を思わせる容貌は幻想的にも見えた。
ただ何がよくたって、人間性がなければその先に待つのは混迷だろう。
僕は見方によっては、その「人間性」というのを垣間見てしまったのかもしれない。
白崎幸葵という人物の。
ラブレターを無意味以下のものにしようと破り捨てる心境。
そこに潜む人間性、あるいは本性。
ダメだ。
深く考えようとしても、なんだか靄がかかっている。
判別できない。
たった一つの行動だけで、その人の本性を理解できるなんてあるわけがないのだ。
ラブレターをごみ箱に捨て去れば、朝に起きた一連の全てを忘れることができる気がした。
幸葵くんにラブレターを送った誰かさんには悪いけど、これでいいのだと思う。
これは幸葵くんとその人の問題であって、僕が首を突っ込む必要のない話だ。
その日の朝の出来事が、僕と幸葵くんの間で話題になることはなかった。
がそれは僕と幸葵くんの間だけであって、他と幸葵くんとは違う。