〜ジェル視点〜
兄ちゃんは柵から手を離した
俺は手を伸ばすと兄ちゃんの腕を引っ張った
一瞬、手を掴んだことを後悔した。
今俺が手を離したら、人殺しになってしまうから、
兄ちゃんは、狂っている
兄ちゃん、兄ちゃん、兄ちゃん……、
一瞬の間に色々なことを考えた。
まずは、兄ちゃんを
ここまで追い詰めてしまった事の後悔、
俺が1人でなんでも出来れば、
兄ちゃんに負担をかけることはなかったのに…、
お母さん達の思いが、
俺に注がれてれば、負担をかけずに済んだのに、
……俺が双子じゃなかったら、
兄ちゃんに負担をかけなくて済んだのに……、
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…、、
もうひとつは、今ここで手を離すか一緒に×ぬか、
正直人殺しになることはそこまで怖くない、
今までお母さん達にされてきた事に比べれば、
でも、兄ちゃんを俺の手で殺すのは…、
やっぱり、怖いし、嫌だ。
でも、一緒に×んでしまったら、
俺の残りの人生、無くなってしまう、
兄ちゃんの事は好き、でも、でも、でも……、
人間最後は自分の事しか考えないんだよ
パッ
俺は兄ちゃんの手を離す。
グシャッ
骨が軋むような、潰れるような音がした。
俺は人を殺したんだ。
人を殺した瞬間、俺は俺では無い俺になって、
プルルルルルッ
アラームの音で目が覚める。
長い、長い、夢を見た気がする。
ある双子の男の子達の、仲間割れ…みたいな夢。
あの物語はリアルで、
何だか現実でも起こりそうな感じだった。
ピロンっ
LINEの通知音が鳴った。
なーくんからのLINEだった。
[END]
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!