ー □□ 年前 ー
バキッ!!
何十年か前の私は、
今よりずっとずっと弱かった。
背も低かったし、
腕の力もずっとずっと弱かった。
足も速く無かったし、
体力も無かった。
弟妹達に、キツい稽古を強いないのと
引き換えに、私は兄達よりも
キツい稽古を強いられた。
彩花と冬馬には、
稽古よりも勉学を優先させた。
もう1人弟が居るが、
あの子はキツい稽古にも、
厳しい勉強にも耐えられそうにない
どれだけボロボロになろうと
どれだけ血反吐を吐こうと、
彩花達が無事であればそれで良かった
ある日、1匹の鬼が
東雲家の屋敷に侵入した。
父上と兄様達が直ぐに
討伐に向かったが、
5分と経たずに殺された。
従者たちがまともに戦えるはずもなく
屋敷は血と飛び散った肉片に塗れた。
彩花達も逃げた、もう大丈夫。
あの子達が殺される事は無い
《 ごめんなさい 》
それだけ言って、
私は鬼に背を向け走り出した
𝙉𝙚𝙭𝙩 ︎ ⇝ 32話 覚醒
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!