第13話

最悪の事態
猗窩座はあろう事か俺の刀を素手一本で頸までの進行を止めた。彼の腕力なら有り得る事だが、それ以上に気取られた事の意味が分からなかった。
獏良 遼
は…?ゔああっ!!っが…!ア゙ア゙!
俺は一瞬思考停止した脳内を一気に取り払い距離を離そうと思えば、持っていた刀を強く握られて猗窩座との距離を取れずに、普段髪で隠していた左目を髪ごと手で思い切り引っ掻くように切られた。
獏良 遼
(な、んだ…この感覚…!まさかっ!!)
目が抉られたような感触とその痛みに悶える。額から左頬にかけて、ざっくりと斬られたそれに滔々と血が流れる。

そして、切られたはずの左目から微量な何かが流れ込んできた。
これは恐らく猗窩座の血。…無惨から血を分け与えられている此奴らの血という事は俺の中の鬼の血を意図的に増やし暴走させようとしたって事かっ…!

本当は少量でも鬼にとっては劇的に力が貰えるのだが、俺はその効果が半減したお陰か片目が異様によくなる程度だった。が、恐らくこっちの目はもう人間の目には戻らないだろう。
もしかしたら、これから何かしら鬼の血の効果が出てくるかもしれないが、今はそんな事気にしている暇は無い。

鬼の回復力が現時点でどのくらい効くのか分からない俺は、兎に角猗窩座から離れたくて刀を横に振おうとするも
獏良 遼
がっ…ぅア゙、は、なせ…!
今度は俺の首を片手で軽々と掴まれ、持ち上げられた。でも、頸が潰れていない事と声が少しでも出せる事から手加減されているのが分かった。それと同時に、刀が猗窩座の体から抜ける。
猗窩座
あぁ、そうだ。お前に一ついい事を教えてやろう
獏良 遼
なっ…''んだ…!
片手は刀を持ち上げられる程力が入らないから、片手だけでも抵抗を続けたが、これで抜けれると思う程俺は馬鹿じゃない。それにこの状態で呼吸を使おうとすれば、気管支部分にある血管が破裂してしまう。

そんな事を考えていれば猗窩座が気色悪い笑顔で俺にそう言ってきた。
猗窩座
闘気が三つ此方へ向かってきている事。そして、もう一つ…これはあの方の命令では無い事だ。
そうか…闘気か。闘う気力、つまり此奴に殺気を当て過ぎたんだ。
そう気付くには遅すぎたようだが。
獏良 遼
そ、れが…どうし…''…っ!!ま…さが、っ!
微笑みを崩すこと無く話したその意図が分からず、酸素が回らない脳内で必死に考えた。すると、ある最悪の答えが浮かんできた。

…闘気が三つ、つまり誰かが此方へ向かってきている…そして闘う意思があるって事は鬼殺隊…それに、ここからでも分かる程の強い気となれば、答えは一つ…柱が三人此方へ向かってきているという事。

そして、無惨の命令では無いって事は…此奴は私情と好奇心だけで、人間としての俺を殺し完全なる鬼にしたいと考えて俺と戦った。…つまり、俺は茶化しと侮辱の為にこの時間猗窩座と対峙していたって事か…?
獏良 遼
や、めろ…ぐるな''っ…!
目の前の男では無く、増援に来てくれたのであろう柱の三人に対して俺はそう零した。
猗窩座
虚しいな、裏切り者の息子…いや、

脱魂鬼の血を引く‘’半人半鬼”
そう俺に向かって言った瞬間、猗窩座は俺の頸から手を離した。恐らく三人が来てしまったんだろう。俺は刀を強く握り締めながら、猗窩座から大幅に距離を取った。

その間は三秒足らずだった。
不死川 実弥
風の呼吸  陸の型 黒風烟嵐こくふうえんらん!!
胡蝶 しのぶ
蟲の呼吸  蜂牙の舞い 真靡き!
伊黒 小芭内
蛇の呼吸  壱の型  委蛇斬りいだぎり
猗窩座
破壊殺  鬼芯八重心きしんやえしん
俺の居た位置は下方から巻き上げるような斬撃も、どんな物も貫通せしめる突きも、両手で振り抜く一閃でも、斬られてはいなかった。ただ、それ以外の体や頸を的確に狙い斬ろうとする柱の呼吸と剣術の精度には、こんな場面じゃなければ感嘆の息でも洩らしていただろう。

だが、それらも全て猗窩座の左右四発計八発の乱打で相殺か跳ね返されてしまった。

それをしのぶは軽い足運びで攻撃を避け、実弥さんと小芭内さんはその衝撃波を多少受けながらもそれを空中で殆ど受け流し、地に足を擦り付けるようにしてズザザッと音を立て着地した。
俺は三人の着地地点よりも更に後ろに居たので、小芭内さんが最初に俺の方を振り返った。
伊黒 小芭内
おい遼!戦、える、か…
あぁ、小芭内さんが絶句するって俺今相当鬼の痕跡残しちまってんだな…。猗窩座と戦ってる最中だってのに、無理やり鬼化解こうとしなきゃ良かった。
不死川 実弥
伊黒?何や、って…
実弥さんも小芭内さんの様子がおかしくなってこっち見ちゃったよ…。もう隠し切れないもんな。貴方も何か言って下さいよ、いつも最初に口出しするお二人が揃って黙らないでよ。
胡蝶 しのぶ
え…りょ、う…?その姿…
しのぶの反応は見たかねぇな…咄嗟に俯いて正解だったかもしれない。多分目を見開いて、誰よりも俺のこの現状を信じたくねえだろうな。ごめんな、カナヲ。すみません、師範。
猗窩座
チッ…戦意喪失したか。まぁ、いい。
俺は気紛れで来ただけだ。自分が嫌になったら此方に来い。完全に鬼にしてやる
獏良 遼
…計ったのか、俺を
俺が猗窩座との実力差を身に染みて顕著に理解し鬼側に完全につくかどうか。そして、鬼になる程の技量と力があるかどうか。…それを自身の目で確認する為だけに、ここに来た。無惨の命令でも何でもなく。
猗窩座
そうとも言うかもしれないな。兎も角、お前ら三人を相手取る気は無い。
なぁ、脱魂鬼の息子。俺はその日を楽しみに待っている。あぁそれと、その時は月輪刀持って来いよ
獏良 遼
っ…!それ以上口開くんじゃねえ
余計な事ばかり口走る彼奴の口を眼圧で黙らせられないかと、思い切り殺気を放つ。だが、それを感じ取ったのは前に居る柱三人だけだったようで。
猗窩座
ははっ、そんな顔するな
また嘲笑のような笑みを浮かべる猗窩座にもう俺は、今の心身の状態では勝てまいと心の中で諦めかけた。
不死川 実弥
逃がす訳ねぇだろうが!!

風の呼吸 弐の型 爪々・科戸風そうそう しなとかぜ
伊黒 小芭内
貴様はここで殺す…!

蛇の呼吸 伍の型 蜿蜒長蛇えんえんちょうだ
実弥さんの鋭利な爪を思わせる数々の斬撃も、大蛇のように長くうねる長距離の変則的な斬撃も、もう猗窩座の頸に届かない。だって、もう彼奴の肌の表面を焦がすような気配が無いから。

というか、彼奴は戦闘狂だが自身の命の危機が迫れば呆気なく逃げる所も鬼だ。薄汚く外道。さっきも言わなくていい事まで三人の前で言い残して、不信感でも煽ってから去ったんだろう。
獏良 遼
もう無理です。彼奴は、猗窩座はここに居ない
不死川 実弥
は?…っ!
俺は全てを諦めて顔を上げて告げた。その言葉を未だ信じられぬ実弥さんが怒りまでも含んだかのように聞こえる疑問符を浮かべるも、硝煙の向こう側を見て分かったようだ。
胡蝶 しのぶ
不死川さんと伊黒さんの型をどうやって…
彼奴は打撃も速いが逃げ足も速いようで、実弥さんと小芭内さんが剣技を放って来ると分かっていたからその前にはもう、素早くあの場を去っていた。その証拠に、力強く踏み込んだ為に地面がへこんでいた。
伊黒 小芭内
…皮肉だが仕方が無い。問題は、
獏良 遼
俺、ですよね
力無く見た小芭内さんの目に俺が映るのが嫌で、俺はすぐ様顔を下に向けて膝までもそのまま地につかせた。三人の瞳の奥にある感情を気取れる程俺の心は強くなかった。

もう俺にこの髪飾りを付ける資格は無いと、蝶の髪飾りまでも地にそっと置き、血を祓ってからしまった刀を鞘ごと髪飾りの隣に置き、抵抗の意思は無いと両手を頭の後ろで組んだ。

誰かの息を呑む音が聞こえる。きっとしのぶだろうな、蝶の髪飾りを置いた瞬間だったから。

…もう俺には生きる価値も鬼殺隊に居る意味も無い。

そう諦めきって静かに瞼を下ろし、視界を閉ざした。あぁ、この後に来る痛みはきっと腹だろうか、それとも脳天だろうか、それとも頸だろうか。

全身が痛い、動くだけで骨が軋む、至る所から血が滴り落ち、腹は未だに腸が見えそうな程抉れていて、肋骨が半数折れて呼吸も若干しずらい。

命を断つなら絶好の機会だろう。さぁ、早く俺を殺して。
伊黒 小芭内
……
一つの足音が俺に向かって来る。距離は近いからすぐ辿り着くだろう。あぁ、この音の方向は小芭内さんか。…この人はデコピンですら痛いのだから、相当覚悟しなきゃなぁ。
獏良 遼
っ…、ぇ…?
衝撃が来たのはあろう事か、項だった。慈悲がありったけ込められた手刀が不思議で堪らなくて俺は掠れた声で、意識を失う直前に「え?」と零してしまった。


━━━━━━━━━━━━━━━暗転
サク
どうも皆さん、サクです
サク
今回で、大分伏線回収しました。

遼がたまに卑屈だったのは→
自分が半分鬼でそれを隠している事に多大な罪悪感を抱いていたから

炭治郎と善逸が聞きかけていたのは→
遼からたまに漏れ出る鬼の匂いや音に気付いていたが、見た目が完全に人間なので聞くのもどうかと思い悩んでいた

しのぶさんの違和感の理由は→
今まで鬼を狩って、それで培った勘のようなものに遼が引っ掛かった
サク
ちなみに、
遼が風柱さんと任務に行かないのは→
実弥さんの稀血に自分も反応してしまいそうになった過去があり、それを二人での任務でその状態になってしまったら…という危機感を抱いていたから
サク
こんな感じでございます。
まぁ、よく見る感じの展開ではございますが!最後までご覧頂けると有難いです!
サク
それでは、今回はこの辺で
バイバイ~