あの事件から数ヶ月が経ち、私の上半身の怪我はもう治っていた。
何度も治療やリハビリをして以前のように動けるようにはなったものの、下半身は何も進歩せず。私は車椅子で入院生活をしていた。
学校の先生からは何度もお見舞いの品やメッセージが送られてきたけど、それに返事をする余裕も勇気もなかった。…私のせいで先輩達にも迷惑をかけたし混乱させてしまった。そんな私に返す言葉があるのだろうか。
…私にはどうすることもできず、ただ弱音を吐くことしか出来ない。
チャニョルと△△は相変わらずお見舞いに来る。△△は生徒会や家の事で忙しいからなかなか来れないけど、チャニョルは毎日のように来るからさすがにこっちが心配になる。
病院の屋上で私の車椅子を押しながら鼻歌を歌うチャニョルに私は問いかけた。
チャニョルはいつだって私の考えてることとか理解して行動してくれる。いつもチャニョルに助けられてきた。
でも、こんな年になってまで甘えてられないのに。
…ほんとに情けない。
車椅子を隅に止めると、チャニョルは小走りで少し遠くの自動販売機に向かっていった。
私はその姿を眺めたあと、ぼーっと空を見上げた。雲が浮ぶ真っ青な空。屋上の花壇に咲いた花の匂いが鼻に触り、私は目を瞑って深呼吸をした。
心が落ち着くはずなのに。何故か不安になる。私、ちゃんと歩けるようになれるのかな。誰にも迷惑をかけずにいられるのかな。
ふと、手首についているミサンガに視線を落とす。上手くいくようにお守り…か。
急に声をかけられて、びっくりして声のするほうを見上げた。
目の前にたっていたのはまん丸の目でぽってりとした唇のはっきりとした顔立ちの男の人。白衣を着ているから…お医者さんなのかな?
男の人は目をキョロキョロさせて、また私を見直した。
通りで初めて見る先生だと思った。
ド先生はあー、と一人納得しながらニコッと微笑んだ。
今までイ先生だったのに変わっちゃうんだ。イ先生から何も言われなかったな……。
しかもやっと仲良くなれた先生なのに変わっちゃうなんて結構戸惑う
ド先生に深くお辞儀をされて、私も慌ててお辞儀をし返した。その様子を見てまたド先生は微笑む。その笑った口が、ハートの形をしてて、不思議で思わず見とれる。
ジュースを両手に持って戻ってきたチャニョル。キョトンとしながら私に問いかけてきた。
チャニョルはちょっと不満そうにド先生を見る。確かに、若い。私たちと同い年くらいかな?
チャニョルは私にはジュースを渡すと、車椅子を押しながら言った。
私とチャニョルはド先生に一礼して、その場を立ち去った。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。