やがてティーパーティーはお開きとなり、ゲストの女子生徒たちは名残惜しそうに去っていく。
彼女たちを見送ると、俺を捕まえた二人がテーブルに戻ってきた。
……そういえば、名前を聞いていなかったな
一年、相馬 実希人です
俺は喫茶部の副部長、
ニ年の朝村 秀真だ
三年、木間 樹だ
やや緊張した雰囲気のなか、ひょこっとすばる先輩が現れた。
どぉしたのー?
何かあった?
彼に聞きたいことがあったので
聞きたいこと?
すると、部長さんまでやってきた。
秀真、そんな怖い顔をしていたら、彼も話しにくいだろう
よければもう一杯、いかがかな。
さっきゲストの皆さんに出したアールグレイがまだ残っているんだ
ありがとうございます、部長さん
ルイでいいよ
美しいヘーゼルカラーの瞳を細めて笑うルイ先輩は、キラキラしすぎて男の俺ですら戸惑ってしまう。
(木下さんも夢中になるわけだ……)
俺が苦笑している間に、ルイ先輩はみんなのお茶を淹れてくれた。
どうぞ
いただきます
カップを持つと、爽やかな柑橘系の香りがただよう。
(いい香りだ……)
(やっぱり、ルイ先輩の紅茶は本当においしい)
しばらく余韻に浸っていると、
それで、
一体何があったんだい?
ルイ先輩の穏やかな問いかけに、
俺は素直に答えた。
……さっきのティーパーティーで、いるはずのない女の子が座っていたんです
いるはずのない女の子?
……たぶん、幽霊です
なっ!?
ユーレイ!?
当然の反応に、俺は淡々と続けた。
……こんなことを話しても、信じてもらえるか分かりませんけど
俺、昔から幽霊が見えるんです
気味悪がられるから、あんまり人には話さないようにしてるんですけど……
どんな反応が来るのか、緊張しながら周りの様子を伺うと、
アメイジング!
えっ?
ルイ先輩は興奮した様子で、俺の手をとった。
幽霊が見える人に、初めて出会ったよ!
目を輝かせた彼に、拍子抜けしてしまう。
どうやったら見えるんだい?
何かコツはあるのかな?
いや、コツも何も、風景みたいに自然と見えるというか
ミッキー、ユーレイが見えるなんて、すごーい!
何で秘密にしてるの?
ボクなら自慢しちゃうなぁ
なんでって、自慢するようなものじゃないんで……
(この人たちは、気味が悪くないのか?)
それで?
さっきは何が見えたんだ?
さっき見えたのは……、
色白で、長い髪をした高校生くらいの女の子でした
あまりに姿がはっきりしていたから、生身の人間だと思ってしまったんです
でも、制服でなく、黒い花柄のワンピースを着ていたから生徒のはずはないし
ふむ……
それで?
その幽霊は何をしていたんだい?
周りの生徒と同じく、ティーパーティーに参加しているかのように座っていました
奥の方に、一人で座っていた女の子がいましたよね?
その子の隣です
奥に座っていたのは……、
2年E組の溝口 心渚さんだね
幽霊の彼女は、心渚さんという人を心配そうに見ていました
心渚さんを……?
ルイ先輩は少し考えてから、はっとして、
そういえば、心渚さんにはいつも一緒にいる友人がいた
……稲葉 愛里さん。
色白で、髪の長い女の子だった
まさか去年の冬、病気で亡くなった、あの稲葉さんか……?
!
秀真先輩の言葉に、みんなが息をのんだ。
彼女とは去年同じクラスで、みんなでお葬式に行ったんだ
まさか、彼女の幽霊が……?
秀真先輩の言葉に、部屋はしんと静まり返る。
もしその幽霊が、愛里さんだとしたら……、彼女は親友の心渚さんのことを、気にしていたのかもしれないね
たしかに、ティーパーティーの最中も浮かない顔をしていたな
そうだね。
周りが楽しそうに盛り上がっている中で、心渚さんには笑顔が見られなかった
ボクのスイーツも、あまり食べてなかったよ
それはいけないね。
僕は心渚さんに、本当の意味でのおもてなしができていなかったようだ
おもてなし?
ティーパーティーに参加してくれたゲストには、美味しい紅茶とお菓子で楽しいひとときを過ごし、心豊かになって帰っていただくのが、僕たちの務めだ
(ティーパーティーひとつに、すごい心構えだな……)
決めたよ。
もう一度、心渚さんのためにティーパーティーを開こう
えっ?
秀真、急いで招待状の用意を
そう言うだろうと思った。
ほら
阿吽の呼吸で、秀真先輩は白い封筒をルイ先輩に差し出した。
すると、ルイ先輩は静かに首を横に振って、
いや、二通だ
二通?
心渚さんと、
……今は亡き、愛里さんに
!
でも、その人はもう……
せっかく喫茶部のティーパーティーに来てもらったのに、紅茶も出さずに帰してしまったとは、大変申し訳ないことをした
それは、今は亡き人でも同じだ
そんな……
僕は紅茶で、二人を幸せにしてあげたい
紅茶で?
『紅茶は、人を救う』
ーーーこれが、僕のモットーだからね
そう言って、ルイ先輩は得意げにウインクしてみせた。
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編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。