第5話

第一章 噂の喫茶部⑤
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2023/01/24 23:00
やがてティーパーティーはお開きとなり、ゲストの女子生徒たちは名残惜しそうに去っていく。

彼女たちを見送ると、俺を捕まえた二人がテーブルに戻ってきた。
朝村 秀真
朝村 秀真
……そういえば、名前を聞いていなかったな
相馬 実希人
相馬 実希人
一年、相馬 実希人そうば   み き とです
朝村 秀真
朝村 秀真
俺は喫茶部の副部長、
ニ年の朝村 秀真あさむら しゅうま
木間 樹
木間 樹
三年、木間 樹  きま   たつき
やや緊張した雰囲気のなか、ひょこっとすばる先輩が現れた。
飴谷 すばる
飴谷 すばる
どぉしたのー?
何かあった?
朝村 秀真
朝村 秀真
彼に聞きたいことがあったので
飴谷 すばる
飴谷 すばる
聞きたいこと?
すると、部長さんまでやってきた。
紅野 ルイ
紅野 ルイ
秀真、そんな怖い顔をしていたら、彼も話しにくいだろう
紅野 ルイ
紅野 ルイ
よければもう一杯、いかがかな。
さっきゲストの皆さんに出したアールグレイがまだ残っているんだ
相馬 実希人
相馬 実希人
ありがとうございます、部長さん
紅野 ルイ
紅野 ルイ
ルイでいいよ
美しいヘーゼルカラーの瞳を細めて笑うルイ先輩は、キラキラしすぎて男の俺ですら戸惑ってしまう。
相馬 実希人
相馬 実希人
(木下さんも夢中になるわけだ……)
俺が苦笑している間に、ルイ先輩はみんなのお茶を淹れてくれた。
紅野 ルイ
紅野 ルイ
どうぞ
相馬 実希人
相馬 実希人
いただきます
カップを持つと、爽やかな柑橘系の香りがただよう。
相馬 実希人
相馬 実希人
(いい香りだ……)
相馬 実希人
相馬 実希人
(やっぱり、ルイ先輩の紅茶は本当においしい)
しばらく余韻に浸っていると、
紅野 ルイ
紅野 ルイ
それで、
一体何があったんだい?
ルイ先輩の穏やかな問いかけに、
俺は素直に答えた。
相馬 実希人
相馬 実希人
……さっきのティーパーティーで、いるはずのない女の子が座っていたんです
紅野 ルイ
紅野 ルイ
いるはずのない女の子?
相馬 実希人
相馬 実希人
……たぶん、幽霊です
朝村 秀真
朝村 秀真
なっ!?
飴谷 すばる
飴谷 すばる
ユーレイ!?
当然の反応に、俺は淡々と続けた。
相馬 実希人
相馬 実希人
……こんなことを話しても、信じてもらえるか分かりませんけど
相馬 実希人
相馬 実希人
俺、昔から幽霊が見えるんです
相馬 実希人
相馬 実希人
気味悪がられるから、あんまり人には話さないようにしてるんですけど……
どんな反応が来るのか、緊張しながら周りの様子を伺うと、
紅野 ルイ
紅野 ルイ
アメイジング!
相馬 実希人
相馬 実希人
えっ?
ルイ先輩は興奮した様子で、俺の手をとった。
紅野 ルイ
紅野 ルイ
幽霊が見える人に、初めて出会ったよ!
目を輝かせた彼に、拍子抜けしてしまう。
紅野 ルイ
紅野 ルイ
どうやったら見えるんだい?
何かコツはあるのかな?
相馬 実希人
相馬 実希人
いや、コツも何も、風景みたいに自然と見えるというか
飴谷 すばる
飴谷 すばる
ミッキー、ユーレイが見えるなんて、すごーい!
飴谷 すばる
飴谷 すばる
何で秘密にしてるの?
ボクなら自慢しちゃうなぁ
相馬 実希人
相馬 実希人
なんでって、自慢するようなものじゃないんで……
相馬 実希人
相馬 実希人
(この人たちは、気味が悪くないのか?)
朝村 秀真
朝村 秀真
それで?
さっきは何が見えたんだ?
相馬 実希人
相馬 実希人
さっき見えたのは……、
色白で、長い髪をした高校生くらいの女の子でした
相馬 実希人
相馬 実希人
あまりに姿がはっきりしていたから、生身の人間だと思ってしまったんです
相馬 実希人
相馬 実希人
でも、制服でなく、黒い花柄のワンピースを着ていたから生徒のはずはないし
朝村 秀真
朝村 秀真
ふむ……
紅野 ルイ
紅野 ルイ
それで?
その幽霊は何をしていたんだい?
相馬 実希人
相馬 実希人
周りの生徒と同じく、ティーパーティーに参加しているかのように座っていました
相馬 実希人
相馬 実希人
奥の方に、一人で座っていた女の子がいましたよね?
その子の隣です
紅野 ルイ
紅野 ルイ
奥に座っていたのは……、
2年E組の溝口 心渚みぞぐち  ここなさんだね
相馬 実希人
相馬 実希人
幽霊の彼女は、心渚さんという人を心配そうに見ていました
紅野 ルイ
紅野 ルイ
心渚さんを……?
ルイ先輩は少し考えてから、はっとして、
紅野 ルイ
紅野 ルイ
そういえば、心渚さんにはいつも一緒にいる友人がいた
紅野 ルイ
紅野 ルイ
……稲葉 愛里いなば   あいりさん。
色白で、髪の長い女の子だった
朝村 秀真
朝村 秀真
まさか去年の冬、病気で亡くなった、あの稲葉さんか……?
相馬 実希人
相馬 実希人
秀真先輩の言葉に、みんなが息をのんだ。
朝村 秀真
朝村 秀真
彼女とは去年同じクラスで、みんなでお葬式に行ったんだ
朝村 秀真
朝村 秀真
まさか、彼女の幽霊が……?
秀真先輩の言葉に、部屋はしんと静まり返る。
紅野 ルイ
紅野 ルイ
もしその幽霊が、愛里さんだとしたら……、彼女は親友の心渚さんのことを、気にしていたのかもしれないね
朝村 秀真
朝村 秀真
たしかに、ティーパーティーの最中も浮かない顔をしていたな
紅野 ルイ
紅野 ルイ
そうだね。
周りが楽しそうに盛り上がっている中で、心渚さんには笑顔が見られなかった
飴谷 すばる
飴谷 すばる
ボクのスイーツも、あまり食べてなかったよ
紅野 ルイ
紅野 ルイ
それはいけないね。
僕は心渚さんに、本当の意味でのおもてなしができていなかったようだ
相馬 実希人
相馬 実希人
おもてなし?
紅野 ルイ
紅野 ルイ
ティーパーティーに参加してくれたゲストには、美味しい紅茶とお菓子で楽しいひとときを過ごし、心豊かになって帰っていただくのが、僕たちの務めだ
相馬 実希人
相馬 実希人
(ティーパーティーひとつに、すごい心構えだな……)
紅野 ルイ
紅野 ルイ
決めたよ。
もう一度、心渚さんのためにティーパーティーを開こう
相馬 実希人
相馬 実希人
えっ?
紅野 ルイ
紅野 ルイ
秀真、急いで招待状の用意を
朝村 秀真
朝村 秀真
そう言うだろうと思った。
ほら
阿吽の呼吸で、秀真先輩は白い封筒をルイ先輩に差し出した。

すると、ルイ先輩は静かに首を横に振って、
紅野 ルイ
紅野 ルイ
いや、二通だ
朝村 秀真
朝村 秀真
二通?
紅野 ルイ
紅野 ルイ
心渚さんと、
……今は亡き、愛里さんに
相馬 実希人
相馬 実希人
相馬 実希人
相馬 実希人
でも、その人はもう……
紅野 ルイ
紅野 ルイ
せっかく喫茶部のティーパーティーに来てもらったのに、紅茶も出さずに帰してしまったとは、大変申し訳ないことをした
紅野 ルイ
紅野 ルイ
それは、今は亡き人でも同じだ
相馬 実希人
相馬 実希人
そんな……
紅野 ルイ
紅野 ルイ
僕は紅茶で、二人を幸せにしてあげたい
相馬 実希人
相馬 実希人
紅茶で?
紅野 ルイ
紅野 ルイ
『紅茶は、人を救う』
ーーーこれが、僕のモットーだからね
そう言って、ルイ先輩は得意げにウインクしてみせた。

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