木下さんは、申し訳なさそうに頭を下げた。
相馬 実希人、青論高校一年生。
たった今、人生初の告白をして、
見事にフラれたところだ。
勉強、運動、容姿、どれをとっても平均点の俺は、たいした特技もなく地味に生きてきた。
そんな俺が、隣の席の木下さんに心惹かれ、一生分の勇気をかき集めて、本日告白したのだが。
未練がましく聞くと、木下さんは顔を赤らめて小さくつぶやいた。
彼女は我に返って、赤く染まった頬を押さえた。
走り去っていく彼女を見送って、そばにあったフェンスにもたれかかった。
喫茶部のことは、噂で聞いたことがある。
なんでもイケメンぞろいの部員たちが、女子生徒を招いてティーパーティーを開いているとか、なんとか。
しかし、そのティーパーティーが大人気で、抽選で当たらないと行けないらしく、一年越しで待っている人もいるという。
我が校では、プラチナチケット並の扱いだ。
地味な俺にとって、イケメンやキラキラ男子は天敵だ。
立ってるだけで女子から崇められるイケメンなんて、憎らしいことこの上ない。
ため息をついて顔を上げると、少し離れた所に、着物姿の小さな女の子が立っている。
ぼんやりとしたシルエット、
古びた着物と時代に合わないおかっぱ頭は、到底令和の少女とは思えない。
何の特技もない俺だが、唯一、幽霊が見えてしまうところは普通の人と違った。
おかっぱの少女は、心配そうに俺を見ている。
フラれたとはいえ、自分はそんなにみじめな顔をしていただろうか。
苦笑すると、少女はフッと姿を消した。
生まれて初めて幽霊を見たのは、小学校一年生の時。
大好きだったじいちゃんが亡くなって、お葬式から一週間が経ったころ。
見たままを伝えただけなのに、お母さんはすごく変な顔をして俺を見た。
それからも、じいちゃんを見る度に母に報告していたら、夜遅くに父と母が話す声が聞こえた。
二人の深刻な声色に、子どもながらに幽霊が見えることは言わない方がいいのだと悟った。
しかし、じいちゃんのことをきっかけに、俺は他の幽霊も見えるようになってしまった。
誰にも言えず、一人で悩んだ時期もあったが、次第に見えることにも慣れていき、それなりに生きてきた。
けれど、いまだに幽霊が集まりやすいところや、人が大勢集まるところは苦手だ。
しかたなく歩き出すと、木の影から白いワンピースを着た若い女の幽霊が、俺を見てクスクスと笑っているのが見えた。
ちっ、と舌打ちしてつぶやくと、白いワンピースの女はフッと俺の目の前から姿を消した。
さっき幽霊が顔を出した木を、思い切り蹴とばしてやると、
打ち所が悪く、足の甲にジーンと痛みが走る。
鈍い痛みを引きずりながら、俺は教室へと戻っていった。
* * *
教室に戻り、自分の席につくと、
その会話を聞いているだけで、腹立たしくなる。
やけっぱちになった俺は、喫茶部に乗り込んでやろうと決意した。
* * *
南校舎の三階、第一特別活動室。
ここが喫茶部の活動場所らしい。
俺は勢いよくドアを開くと、
目の前に飛び込んできた光景に、思わず言葉を失った。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。