四郎は、目の前で余裕ぶってるチンピラを見て、一つため息をついた。

そんな言葉を無視して、四郎は一番前にいた男に近づいた。

男が腕を振り上げた瞬間、四郎は、目で人を殺せるぐらいの鋭い目を、殺気と共に向けた。

そして、四郎は鋭い目のまま口元を少し緩めた。

四郎は男の耳元でこう囁いた。

チンピラ達は、四郎の殺気に呑まれて何も言えなくなっている。

四郎は言葉を続けた。

四郎は、目の前の男の胸辺りを人差し指でトンとついた。

チンピラ達は、さぁっと青ざめた。

Little Tigersの話もあるが、何よりも四郎の殺気が異常だったのだ。

バタバタと覚束無い足で、チンピラ達は去っていった。

チンピラ達を笑顔で見送ると、左馬刻の事務所に向かった。

左馬刻は、煙草を吸いながらソファーに堂々と座っている。

左馬刻は呆れ顔をして、ふーっと煙草の煙を吐いた。

四郎は、左馬刻にお礼を言うと、真顔になった。

四郎の予想のつかなかった答えに、左馬刻は目を見開いた。

四郎は相変わらず、表情を崩さないでいた。

左馬刻は、四郎と話が噛み合わないと思ったのか、諦めて、また煙草を吸いだした。

四郎は、ソファーに座っている。

ふっと笑った四郎の顔が、なんとも言えない表情で、左馬刻は黙った。

四郎がラップを辞めた時は、まだ左馬刻はラップをしていて、その年に一郎達とチームを組み、The Dirty Dawgとして活躍した。

そして去年、The Dirty Dawgは解散したが、山田兄弟がラップチームを組んで、またラップバトルを始めた。

四郎にとって、ラップは離れたくても離れられないものだということだ。

唐突の四郎の質問に、左馬刻は反応に遅れた。

四郎がそうやる気を見せると、左馬刻にお礼を言って、事務所を後にした。

四郎が色々考えながらヨコハマの街を歩いていると、見知らぬ男達に呼び止められた。

四郎は、男達の方を振り返った。

にやにやと男達は笑っている。

こいつらは、なぜか四郎の名前を知っていた。

男達の中でも、一番体格のいい奴が言った。

四郎は、いつもの通りにLittle Tigersの話を持ち出して、逃がそうと思っていたが、その前に男が口を開いた。

四郎はまだ事の整理がついてないのに、男達はマイクを取り出した。

男達のマイクは、違法のものではなく、ちゃんと中央区から貰ったものだった。

こいつらは、ラップバトルをするためにマイクを正式に貰ったんだ。

四郎は、いつもよりも身構えて、男達を睨んだ。