目の前の光景は、誰もが想像の出来ないものだ。

部屋を少し進んだところには、ソファーがあり、その前に人影が倒れている。

横たわっているのは、知り合いである、綾部翠だった。

今日は、翠が来る日だっただろうか。

翠は、酷い姿になっていた。

服は、大きな鷹に引っ掻かれたような爪痕に破られ、顔や腕、足などの肌にも幾つもの傷がある。

その傷からは、赤黒い血が、唯一ある照明に照らされて光っている。

翠の周りは、血で溢れていた。

髪の毛もぐしゃぐしゃで、汚い。

四郎は驚きで動けないでいた。





ふと、横に目を逸らすと、人の足が見える。

ばっと顔を見た。

男だ。

男がいる。



四郎は、翠の姿以上に目を見開いた。

その男の姿は、まるで、いや、四郎にそっくりだった。

四郎にそっくりのその男は、顔や服に血が飛び散っていた。

多分、翠の血なのだろう、男に傷はなかった。

そして、男は手に赤いマイクを握り締めている。

いや、赤いマイクじゃない。

翠の血がついたマイクなのだ。

血で染まったマイク。

すると、いきなり男が四郎の方を向いた。

顔まで......そっくりだった。

男の顔は、細かい部分まで四郎にそっくり。

男は四郎を見つめた。

その目には、生気がある。

こいつは確かに人間だ。

だが、なぜ四郎と同じ姿をしている？

混乱で頭が上手く回らず、考え込む四郎。

それを見て、ふっと男が口角を上げた。

笑い方が、いかにも悪役な感じだ。

途端に、吐き気が四郎を襲った。

素早く口元を抑えた。

男の口角は上がったままだ。

今までに風邪を引いて吐き気がしたことはあったが、そんなものとは違う。

もっと強烈な、何かに取り付かれたような吐き気だ。

四郎は、急な吐き気と恐怖で、覚束無い足をしながら走り出した。

その日は、家には三人とも揃っていた。

四郎は、勢いよく家のドアを開けると、玄関で崩れ落ちた。

玄関でしゃがみこむ四郎を見つけたのは、一郎だった。

一郎の驚きの声と共に、二郎もやって来た。

それから、三郎も四郎の変化に気づいた。

顔が青ざめている。

三郎が、四郎の顔色を察した。

だが、少し遅く、四郎はその場で吐いてしまった。

四郎は体が熱くなっていた。

一郎は、二人に指示を出して、四郎を部屋へと運んでいった。

部屋に着くと、四郎をベッドに降ろした。

四郎は、ふるふると首を横に振った。

吐いてベッドに横になったからか、四郎は少し落ち着いていた。