一郎は、うつ向いて何も言わない四郎を見た。
四郎は今、脳をフル回転して言い訳を考えている。
三郎の誤解をどうやって解くか、一郎に何を言えば怪しまれずに済むか。
四郎が何も言わずに黙っていると、三郎がゆっくり口を開いた。
三郎は、いつもの笑顔で一郎に話した。
四郎は、三郎の思考が理解出来なくて困っている。
すると、一郎が納得したように笑顔を作った。
太陽の様な一郎の笑顔は、さっき見た三郎の冷たい目とは、全くの真逆だった。
さっき、三郎が冷たい目をしたとき、四郎は『三郎もあんな目出来たんだ』と、少し呑気に考えていた。
三郎は一郎の手を引いてリビングに入っていく。
その時、三郎は四郎に一度も目を向けなかった。
三郎と一郎がリビングに入り、ドアが閉められた。
大体、四郎は兄弟のラップバトルに口出ししないと決めてるんだ。
一度でも口出ししてしまうと、昔を思い出すから。
だから、口出しなんかしたくない。
三郎が心配するようなことは絶対にない。
四郎は、半ば諦めの心でリビングに入っていった。
紮生と海頼に電話をすると、二人とも左馬刻が犯人じゃないと知って安堵していた。
やっぱり、二人も左馬刻を信用している。
すると、いきなり家のインターホンが鳴った。
一郎がドアを開けると、そこには玲也が立っていた。
四郎の言葉を遮るようにずばっと言った。
四郎の心は今あまり踊らないが、それでも、そのビッグニュースが気になり、玲也を部屋にあげた。
不機嫌な四郎の声に、玲也はふっと笑った。
四郎はビッグニュースが聞きたくて仕方ない様子だ。
玲也も、四郎が信頼している人だから、王子様スマイルでなく、無愛想な対応をしている。
四郎は、嬉しさで少し気分が晴れていた。
『獣の涙』は、シブヤに行く前に出した新作だ。
正直、四郎自身でも自信があるものだったから、安堵していた。
四郎は、バラされた時のことを思い浮かべて、顔を青白くした。
四郎らしくない言葉に、玲也は絶句した。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。