四郎は、一番大きな病院に来た。
有名な先生がいる、シンジュクの病院だ。
看護師は、少しの間奥に行くと、またすぐに戻ってきた。
看護師からの質問に、少し言葉に詰まった。
そう言って、四郎はエレベーターに向かった。
看護師から教えてもらった、翠の病室の前に着いた。
四郎は、部屋の前で少し立ち止まった。
息を一つ吐くと、意を決してドアを開ける。
中には、予想通りに、翠がベッドの上で寝ていた。
翠は、三年前にあの事件があってからシンジュクのこの病院に運び込まれ、命に別状は無いものの、ずっと目を覚まさないのである。
翠の周りに機械などがある。
ベッドの側に行くと、四郎は翠の顔を見た。
いきなり、四郎の後ろから低い声が聞こえた。
後ろにいたのは、白衣を着た、高身長の男の先生だった。
寂雷は、にっこりと四郎に笑顔を見せた。
寂雷は、四郎に問いただした。
四郎は、そう言うと、また翠に視線を落とした。
諦めたように、四郎は言った。
四郎は、夢に出てきたあの日の事件を、いつまでも後悔していた。
後悔しても、今さらどうにも出来ないのは知っている。
翠のお見舞いに来たからと言って、あの事件が解決する訳じゃないのも、知っている。
四郎は、今にも嫌悪感で埋め尽くされそうな自分の心を、必死に冷静に戻して、寂雷を見た。
寂雷は、あまり昔の話をしたくないのか、淡々と話していた。
そう言って、四郎と寂雷は連絡先を交換した。
その後は、四郎も病院を出て家に向かった。
その時、四郎とはすれ違いで、もう一人翠のお見舞いに来ている人がいたのだ。
ヨコハマに住み、今は四郎達と全く連絡をとっていない柳だ。
連絡はとっていないし、ヤクザっぽくなったが、翠のお見舞いだけは、毎日来ていた。
そのため、寂雷とも知り合いなのだ。
いきなりの名前に、柳は驚きを隠せなかった。
寂雷は、不思議に思い、少し首を傾げた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!