第12話

誰よりも優先する約束
数日後、夏祭り当日。


私の仕事は、歩行者天国の中央に設置された、ステージの裏方に決まった。


催し物が一日中入れ替わり立ち替わりで行われるため、指示書に沿ってステージを素早く整えなければならない。
真弓 朋果
真弓 朋果
(えっと、この椅子がこっちで……! あー、目が回る!)

炎天下の中、汗を拭いながらも法被はっぴを着て取り組む。


でも、同じ場所に偶然丈春さんもいるので、不安はない。


彼も今日の助っ人になっているとは知らず、ここに来てびっくりした。
蓮井 丈春
蓮井 丈春
こまめに水分をとるんだよ
真弓 朋果
真弓 朋果
はい。
丈春さんも

もしかすると、私が参加することを知って不憫に思い、丈春さんも駆けつけてくれたのかと一瞬想像したのだけれど。


そこまでする理由が、彼には見当たらない。


きっと、ただ単に頼まれて引き受けただけなのだろう。


友達との約束を断ったことに対して罪悪感こそあるけれど、結果的にこっちを選んでよかったと思っている。



***



タイムスケジュールが一段落いちだんらくし、私は丈春さんと一緒に、テントの中で休憩をとった。
真弓 朋果
真弓 朋果
あの和太鼓のステージ、迫力凄かったですね!
蓮井 丈春
蓮井 丈春
凄かった……。
俺はあんな長いリズムを覚えられる気がしない……。
あっ、手品のやつ、あれネタ分かった?
真弓 朋果
真弓 朋果
あはは。
分かるわけないですよ。
分かったらマジシャンになれますって
丈春の友達
丈春の友達
あっ! いた!
丈春ー!

ステージの内容で談笑していると、丈春さんの友達らしき男女複数人がやってきた。
蓮井 丈春
蓮井 丈春
おわっ。
見つかった……

丈春さんは気まずそうに顔を歪め、何やら思案する仕草を見せる。
丈春の友達
丈春の友達
おまえ、急にドタキャンして裏方に入るとか、そんなにそっちがいいのかよ
丈春の友達
丈春の友達
猫よりも、ボランティアに目覚めちゃった感じ?
蓮井 丈春
蓮井 丈春
違うって。
俺がやりたいからやってるの

どうやら大学の友達のようだ。


丈春さんも友達との約束を断って、こっちに来ていたらしい。
真弓 朋果
真弓 朋果
(もしかして私に遠慮して、自分だけ楽しむわけにはいかないってこっちに来たのかな……)

丈春さんに変に気を遣わせてしまった結果、彼の友人関係をギクシャクさせてしまったかもしれない。


近くで会話を聞きながら、ハラハラする。
丈春の友達
丈春の友達
あれ? かわいい子がいる。
妹さん?

女友達らしき女性が、私を見てそう言った。
蓮井 丈春
蓮井 丈春
いや、同じマンションに住んでる子。
彼女も裏方を進んで引き受けて、頑張ってくれてるんだ

私が慌てて頭を下げると、丈春さんが先に否定し、誇らしそうに紹介してくれた。
真弓 朋果
真弓 朋果
初めまして。
丈春さんにはいつもお世話になっています
丈春の友達
丈春の友達
へえ~、そうなんだ。
偉いね~
真弓 朋果
真弓 朋果
とんでもないです……

彼女は笑いながら褒めてくれたが、目が笑っていない。
真弓 朋果
真弓 朋果
(きっとこの人は、丈春さんが好きなんだ。私が妹じゃないって分かって、警戒してる)

この場を去りたい、と思ってしまった。


どうにか離れられないかタイミングを窺っていると、先程の女性が丈春さんに近寄る。
丈春の友達
丈春の友達
ねえ、これが終わったら時間あるでしょ?
ちょっとは一緒に回ろうよ

私よりも大人っぽくて、おしゃれな浴衣を着て、髪もメイクも綺麗で。


法被姿で髪もボサボサ、汗まみれな私には、何も勝てる要素がない。
蓮井 丈春
蓮井 丈春
いや。
この後は先約があるから、無理。
それはみんなよりも先に約束してたやつ。
だから、ごめん!
丈春の友達
丈春の友達
えっ!
丈春の友達
丈春の友達
マジで!?
相手、誰よ?
蓮井 丈春
蓮井 丈春
内緒

丈春さんは、意外にも彼らの誘いを断った。
真弓 朋果
真弓 朋果
(誰よりも優先する相手がいるんだ……)

潔さに好感こそ持てるものの、残念がる彼ら友達と同様、私もショックを受けていた。


彼女がいないと言っていたのは、何だったのか。


【第13話へつづく】