夏祭り翌日の夕方。
昨夜のデートらしきものを思い出してはうつつを抜かしつつ、自宅で学校の課題に取り組んでいると、英文の中に猫の話が出てきた。
思い返してみると、最後に見たのは、夏祭りの数日前。
それ以前は、毎日のように見かけたり、声を掛けたりしていたのだけれど――。
野良猫なので、ふらりとどこかに行ってしまって、帰ってこないこともあるだろう。
夕方と言えど、外はまだ明るくて、残暑も厳しい。
彼らもどこかで涼んでダラダラしているのかもしれないと思い、私は外に出た。
名前を呼んで飛びつかれても困るので、控えめに呼びかけながら、マンションの周辺をぐるっと散歩する。
木陰やあちこちの隙間を確認してみても、木の枝にも、彼らの姿は見当たらない。
自宅へ戻ることにして、踵を返す。
でも、心のモヤモヤは晴れなかった。
丈春さんと私を一気に近づかせてくれて、私が新しいことを見つけられるように導いてくれた、ある意味キューピッドや天使のような猫たちだ。
人懐っこくてかわいいし、いつの間にか情がわいていたらしい。
寂しく思いながら独り言を呟いていると、公園の方から微かだが猫の鳴き声が聞こえた。
自分の直感を信じて、恐る恐る声のする方へと行ってみる。
草むらを奥まで、ゆっくりと踏み分けて進む。
鳴いていたのはやっぱりごまで、だいふくに寄り添い、心なしか悲しそうにしている。
その隣でだいふくは地面に倒れ、ぐったりとしていた。
驚いて、私は二匹に駆け寄る。
そっと触ると、お腹が上下しているのが分かったけれど、衰弱しているのは確かだ。
周囲には、吐いたような跡もある。
でもこの場合、どうしたらいいのだろうか。
彼らは野良猫で、飼い猫ではない。
動物病院に連れて行っても、治療費が払えないとなると、彼らの命はどうなってしまうのか。
涙目になりながら、慌てて丈春さんに電話を掛けると、幸いにも彼はすぐに出てくれた。
言われたとおり、三回深呼吸するとかなり気持ちが落ち着いた。
それから今の目の前の状況を伝えると、丈春さんは苦しそうな声を出す。
電話を切ると、私はすぐに母に連絡した。
このところ、猫の話はよくしていたので、『だいふく』という名前だけで状況は伝わった。
数分後、昔使っていたキャリーバッグとタオルを乗せて、母が迎えに来た。
私は無我夢中でだいふくを抱っこし、タオルにくるんで車に乗る。
だいふくが弱々しく鳴いて、同時に車が発進する。
私たちが遠ざかる様子を、ごまが車の外からずっと見守っていた。
【第16話へつづく】
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。