せめて、私も夜は友達と合流する約束をしておくんだった。
そう後悔した。
今日が何時から何時まで裏方に入るのかは、直前まで調整がなされていて分からなかったのだ。
心ここにあらずで、その場に突っ立って考えている間に、丈春さんの友達たちは去っていった。
彼女はいないと言った日の後に、実は彼女ができたのかもしれない。
もしかすると、前から気になっていた人がいて、声を掛けたのかもしれない。
その逆で、私よりも先に告白に成功して、付き合うことになった人がいるのかもしれない。
想像すればするほどに、嫉妬で悲しくなってしまう。
恋愛に関しては全く経験がないので、そういう可能性は考えていなかった。
無意識に表情に出ていたらしい。
丈春さんから現実に呼び戻されて、しゅんと肩を落としながら用件を聞く。
丈春さんは頭を掻きながら、少し横に視線を外して聞いてきた。
恥ずかしがっているようなそんな表情に、私の脳内は混乱する。
彼の質問の意図が、分からない。
どう返事をしたらいいか狼狽えた結果、語尾が疑問形になった。
心臓が跳ねた。
妙に胸がざわついて、これから彼に言われることを期待してしまう。
突然の誘いに驚いて、ぼんやりしながら承諾した。
そして、じわじわと現状を理解していく。
丈春さんは悪戯っ子のような笑みを浮かべて言った。
さっき彼らに言った先約とは、私のことだったのだ。
嬉しくてたまらなくて、顔が真っ赤になる。
丈春さんは上機嫌になり、冷やしておいたジュースを手に取ると、私の頬に優しく押しつけてきた。
【第14話へつづく】
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。