第6話

猫の苦手を克服したら……
ここのベンチは日陰になって風通りもいいけれど、それでも真夏の暑さは感じる。


にもかかわらず、私の膝の上でくつろいでいるごまは、暑くないのだろうか。


ごろごろと喉を鳴らしながら甘えている様子を見て、私は思いきってその背中に触れた。
真弓 朋果
真弓 朋果
(あ……平気、かも?)

背骨にそってゆっくりと撫でてみる。


昔を思い出すような猫の感触に少しほっとしつつも、引っかかれたり威嚇されたりしないかは、まだ不安があった。


そんな気持ちも知らずに、ごまは「もっと撫でて」とでも言いたげに、私の手に頭をすり寄せる。
ごま
ごま
ニャ~ン……

たどたどしくも、ごまの耳の後ろやあごをくすぐると、彼は気持ちよさそうに鳴き声を上げる。
真弓 朋果
真弓 朋果
ごま、本当に人に慣れてるんだね
蓮井 丈春
蓮井 丈春
いい感じだ。
朋果ちゃんは平気?
真弓 朋果
真弓 朋果
はい。
自分で思ってたよりも、大丈夫かもしれないです……。
この子だからっていうのも大きいでしょうけど

地面から私たちの様子を見ていただいふくも、ぴょんと飛んでベンチの上に乗ってきた。
だいふく
だいふく
ニャッ

私の膝に前足の片方を置いて、じっとごまを見つめている。
蓮井 丈春
蓮井 丈春
だいふくも朋果ちゃんがいいのか……。
それはそれで妬けるな
真弓 朋果
真弓 朋果
あはは。
両手に花ならぬ、〝両手に猫〟ですね
蓮井 丈春
蓮井 丈春
ははっ。
うまいのか、それ?

この調子なら、猫に対する苦手意識も、いずれ克服できるかもしれない。


そうすれば、丈春さんとももっと一緒にいられる。


そんなことを考えて、口元が緩んでしまう。
蓮井 丈春
蓮井 丈春
この子たちの性格もあるだろうけど、猫は基本的に気まぐれだからな。
寄ってきたらちょっと構う、っていう気構えでいいと思う
真弓 朋果
真弓 朋果
分かりました。
小さい頃は、うちの猫を追いかけ回してよく親に怒られていたので……。
距離感って大事なんですね
蓮井 丈春
蓮井 丈春
うんうん

頷きながら、控えめに待っているだいふくにも、下から手を伸ばしてみる。


だいふくはすんすんと鼻を動かして私の手のにおいを嗅いだ後、目を閉じて頭を撫でさせてくれた。
真弓 朋果
真弓 朋果
(かわいい……。猫って、こんなにかわいかったっけ……)

今のところ、ごまとだいふくに関しては、恐怖は薄れてきた。


だけど、まだまだ他の猫に慣れるのには、時間がかかるだろう。
蓮井 丈春
蓮井 丈春
あのさ。
朋果ちゃんが猫の苦手を克服できたら、なんだけど……。
猫カフェとか興味ない?
真弓 朋果
真弓 朋果
猫カフェですか?
蓮井 丈春
蓮井 丈春
いや、前はひとりで行ってたんだよ。
でも周りが大体女性客かカップルでさ、男ひとりはめちゃくちゃ浮くの

唐突に猫カフェの話が出て首を傾げていると、実に微笑ましい光景の話が聞こえてきた。
蓮井 丈春
蓮井 丈春
『あの男の人、ひとりでにこにこしてる』とか、『猫好きなのかな。かわいい~』とか言われるわけ。
もうそれが苦痛で行けなくなって……
真弓 朋果
真弓 朋果
はい……っ……

思わず吹き出してしまいそうになり、私は必死で耐えた。
真弓 朋果
真弓 朋果
そ……その人たちも悪気はない、と思いますよ……
蓮井 丈春
蓮井 丈春
まあ、それは分かってるんだけどさ……。
猫をでるのに集中してほしいよな
真弓 朋果
真弓 朋果
ぷっ……! ふふっ
蓮井 丈春
蓮井 丈春
あー、朋果ちゃんも笑った!
真弓 朋果
真弓 朋果
すみません……。
耐えきれず……

女性側の気持ちも分かってしまうのでフォローしておいたが、丈春さんの言葉に追い打ちをかけられてしまった。
真弓 朋果
真弓 朋果
おうちでは飼えないんですか?
うちのマンション、ペット可ですよね
蓮井 丈春
蓮井 丈春
親が猫苦手なんだ……。
どうしてもダメって言われるから、就職して一人暮らしを始めたら、猫を飼うって決めてる
真弓 朋果
真弓 朋果
あはは。
それも夢ですね!
蓮井 丈春
蓮井 丈春
うん。
で、猫カフェもまた行きたいんだよ。
朋果ちゃんがいろんな猫に触る練習にもなるし、もし大丈夫そうなら、いつか一緒に行こうよ

突然の誘いに、頬がかあっと熱くなるのを感じた。


【第7話へつづく】