第9話

私がここにいる意味
子ども
子ども
あ。
丈春くん、またあの子のとこ行ってる

子どもたちも、彼女に気付いてはいるようだ。


話を聞いてみることにした。
真弓 朋果
真弓 朋果
知ってる子なの? 同じ学校の子?
子ども
子ども
うん。
転校してきたばっかりなんだ
子ども
子ども
まだこっちに慣れてないのかも
真弓 朋果
真弓 朋果
そうなんだ。
じゃあ、一緒に遊ぼうって誘わなきゃ

私が子どもたちの立場ならどうするか。


それを考えて提案してみたけれど、子どもたちは顔を見合わせて気まずそうな表情をする。
子ども
子ども
学校でも誘ったけど、あの子が『いい』って言うんだもん
子ども
子ども
なのに、キャンプには来てるって変なの
子ども
子ども
そうだよ。
ひとりがいいなら、ひとりで遊んでればいいじゃん

口々に自分たちの正当性を主張する子どもたちに、私はどうしたらいいか分からなくなってしまった。


保護者でもなければ、先生でも、家族でもない――ただの近所のお姉ちゃん。


そんな人が、子どもたちの事情にどこまで介入していいのか。
真弓 朋果
真弓 朋果
(でも、放っておいていいもの? 私がここにいる意味って何?)

黙ってじっくりと考えた末に、このままではいけないと私は口を開くことにした。
真弓 朋果
真弓 朋果
ひとりがいいならキャンプなんて来ないよ。
仲良くなりたいけど方法が分からなくて、一歩踏み出すのが怖かっただけかもしれない。
まだ勇気が出せないのかもしれない。
何度でも声を掛けてみよう?

そう提案したところ、子どもたちはしばらく考え、「どうする?」と話し合いだした。
子ども
子ども
お姉ちゃんの言うとおりな気がする
子ども
子ども
……うん。
迎え、行こ!

子どもたちがそう結論づけた直後、丈春さんが女の子を連れてこちらへやってきた。


女の子の気持ちにも、進展があったようだ。
子ども
子ども
あの……えっと……

女の子は何かを言いたげなのだが、次の言葉が出てこない。


かなり、引っ込み思案な子らしい。
蓮井 丈春
蓮井 丈春
ほら。
さっき俺に言ったことを、そのまま言えばいいんだよ

丈春さんが、彼女の一歩後ろから優しく励ますように声を掛ける。


子どもたちも、女の子の言葉をじっと待った。
子ども
子ども
わ、私も星が見たい……!

消え入るような声だったけれど、子どもたちには届いていたようだ。


先頭にいた子が、笑って彼女の手を引いた。
子ども
子ども
いいよ! こっち来て!
子ども
子ども
こっち側に夏の大三角が見えるから!
子ども
子ども
……!
うん!

明るく招き入れる彼らを見ていると、胸がぽかぽかと温かくなってくる気がする。


後は子どもたちだけに任せても、問題ないだろう。


彼らを見守る私の隣に、丈春さんがやってくる。
真弓 朋果
真弓 朋果
なんか……楽しくサポートすればいいだけかと思ってたんですけど、難しいですね

ボランティア活動ひとつとっても、こんなに大変だとは思わなかった。


でも、やりがいというのだろうか――心が満たされるのを感じる。


丈春さんは同意するように深く頷いた。
蓮井 丈春
蓮井 丈春
どんな仕事でも、難しさにぶつかるときは必ずあるよ。
それを乗り越えられるかは、その人の心構え次第だろうね
真弓 朋果
真弓 朋果
はい
蓮井 丈春
蓮井 丈春
おつかれ。
初めてとは思えないくらい、よく頑張ってる。
サークルのみんなもすごく褒めてたよ
真弓 朋果
真弓 朋果
ほんとですか!

目の前にお茶の入った水筒を差し出された。
蓮井 丈春
蓮井 丈春
ほんと、ほんと。
ちゃんと水分補給してね
真弓 朋果
真弓 朋果
ありがとうございます……

ねぎらいと褒め言葉が嬉しくて、自然とにこにこしながらそれを受け取る。
蓮井 丈春
蓮井 丈春
子どもたち、かわいいでしょ?
真弓 朋果
真弓 朋果
はい、とっても!

こうして、一泊二日のキャンプは無事に終了した。


【第10話へつづく】