第11話

嘘のない褒め言葉
笑い声の主は、案の定、丈春さんだった。


ごまとだいふくに声を掛ける私の様子を、後ろから見ていたらしい。


悔しくて、私は軽く唇を尖らせる。
蓮井 丈春
蓮井 丈春
こっちから関わろうとすると、ああなるんだ
真弓 朋果
真弓 朋果
せっかく慣れてきたのに……
蓮井 丈春
蓮井 丈春
じゃあ、猫カフェに行ける日も近いか

その声が弾んでいて、丈春さんも楽しみにしてくれているのだと分かる。


相手が私だからではなく、久しぶりの猫カフェだからだろうけど。


それでも、他の人と行くという選択肢が彼にはなさそうなので、嬉しいものだ。
真弓 朋果
真弓 朋果
も、もう少し、慣れたら……でいいですか?

本当はもう大丈夫だと思うのだけれど、ごまとだいふく以外の猫に近寄られて平気かと聞かれると、自信がない。


それに、丈春さんと私用で出かけるのには、心の準備もいる。


照れながら答えると、丈春さんは笑って頷いた。
蓮井 丈春
蓮井 丈春
そういえば、今度の夏祭りは友達と行くの?
浴衣買いに行くって言ってなかったっけ?
真弓 朋果
真弓 朋果
あ、いえ。
ボランティアの話がきたので、今年はそっちを頑張ってみようと思います
蓮井 丈春
蓮井 丈春
あら……。
無理して参加しなくていいんだよ?
自分の予定を崩してまでやるものではないし。
学生時代にしかできないことを楽しむっていうのも、君にとっては大事だと俺は思う

丈春さんの表情は真剣で、よく見る『先生モード』になっていた。


私が夏祭りを楽しみにしていたのを、覚えていたからだろう。
真弓 朋果
真弓 朋果
いいんです。
自分で決めたことだし、まだやりたいことが見つかっていないから。
正直、焦っているとは思うんですけど。
友達と思い出を作ることは、まだ他にもできると思うので
蓮井 丈春
蓮井 丈春
うん……。
まあでも、俺も君の立場だったら引き受けると思うから、分かるよ。
もう決めたなら、熱中症に気をつけて頑張って
真弓 朋果
真弓 朋果
はい。
ありがとうございます

彼は頷き、直接は触れなくても、私の背中を言葉と表情で押してくれる。


丈春さんと話すと、心が楽になる。


彼に救われた人はたくさんいるだろうな、と思わせるくらいだ。
蓮井 丈春
蓮井 丈春
朋果ちゃんならどんなことでも頑張れると思う。
残りの夏休み中にも、何か発見があるといいね
真弓 朋果
真弓 朋果
えへへ……。
ありがとうございます
蓮井 丈春
蓮井 丈春
ああ、そういえば。
サークルのメンバーから朋果ちゃんへの褒め言葉を聞いてるから、メモしておいたんだった
真弓 朋果
真弓 朋果
え?

丈春さんが思い出したように言って、ポケットからスマートフォンを取り出し、何やら操作を始める。
蓮井 丈春
蓮井 丈春
ええと……。
『朋果ちゃんが来てくれると、場が明るくなる』
『初めてなりに、分からないことも積極的に聞いて、とても頑張っている。本当にいい子だ』
『頼み事をしても快く引き受けてくれた』
これ、全部俺に届いた声ね
真弓 朋果
真弓 朋果
えっ、本当にですか?
蓮井 丈春
蓮井 丈春
嘘言ってどうするんだよ。
俺も嬉しかったから、全部に『そうでしょう?』って返しておいた

なぜか丈春さんが得意気になっている。


直接褒められるよりも、間接的に褒められる方が、嬉しいことがある。


なぜなら、そこには嘘がないから。


わざわざ丈春さんに伝えるということは、彼らが本当にそう思ったということだ。


照れくさいのと嬉しいのとで、私は両手で顔を覆った。
蓮井 丈春
蓮井 丈春
俺も用事があって、朋果ちゃんが参加する活動に全部同伴できなかったけど、みんな見てるし評価してるよ。
着実に成長してますな
真弓 朋果
真弓 朋果
ふふ……。
ありがとうございます
ごま
ごま
ニャオッ

ふたりで話していると、足元から鳴き声がした。


ごまとだいふくが戻ってきたようだ。
ごま
ごま
ニャーン
蓮井 丈春
蓮井 丈春
お、ごまー。
だいふくー
真弓 朋果
真弓 朋果
さっきは向こうに行っちゃったくせに
だいふく
だいふく
ニャッ

私がしゃがむと、二匹とも「撫でて」と頭を押しつけてくる。
真弓 朋果
真弓 朋果
(……だいふく?)

ふと、だいふくにいつもの元気がないような気がした。


【第12話へつづく】