第7話

指切りげんまん
誘いは嬉しくても、一度よく考えてみる。


猫カフェに一緒に行く相手が、私でいいのだろうか。


カップル客が多いのなら、そういう風に見えてしまうのに。
真弓 朋果
真弓 朋果
か、彼女さんとは行かないんですか?
蓮井 丈春
蓮井 丈春
えっ。
そんなのいないよ? いると思ってた?
真弓 朋果
真弓 朋果
あっ……はい

すっぱりと否定されて、驚くと同時にほっとしている自分がいる。


同じ大学生の彼女くらい、絶対にいるだろうと思っていたから。
蓮井 丈春
蓮井 丈春
そんなにびっくりすること?
え、俺って寂しい人……?
この歳で、猫ばかりとたわむれてるってやっぱりやばい?

私の驚きように、丈春さんはせわしなく瞬きをして焦りだした。
真弓 朋果
真弓 朋果
いえ、そんなことないです!
……もしかして、誰かに何か言われたんですか?
蓮井 丈春
蓮井 丈春
大学の友達に。
つっても男だけど、『お前やばいぞ』ってからかわれた……
真弓 朋果
真弓 朋果
あはは。
価値観なんて人それぞれ、ですもんね
蓮井 丈春
蓮井 丈春
そうそう。
あー、よかった。
朋果ちゃんが言うなら安心だ

先生みたいに大人びた人かと思いきや、そういうことで悩んだりもするのだと、私は妙に親近感を覚えた。


丈春さんと一緒に猫カフェに行くためにも、どうにか、猫に対する苦手意識を克服したい。


そう、心に決める。
真弓 朋果
真弓 朋果
ごまとだいふくで猫に慣れてきたら、ぜひ、行ってみたいです
蓮井 丈春
蓮井 丈春
ほんと!?
よし……頼むぞ、ごま、だいふく。
君たちにかかってる

丈春さんは目を輝かせて、嬉しそうに二匹の頭を撫でた。
ごま
ごま
ニャーン
だいふく
だいふく
ニャッ

二匹は何のことだか分かっていないはずなのに、元気に返事をする。
蓮井 丈春
蓮井 丈春
はい、じゃあ指切り
真弓 朋果
真弓 朋果
ゆ、指切りげんまん……

小指と小指が触れあう感覚に、またドキドキする。


今時、律儀に指切りを交わす高校生と大学生も珍しいだろう。
真弓 朋果
真弓 朋果
どうして、猫が好きなんですか?

心臓の音を悟られないように、新しい質問をする。
蓮井 丈春
蓮井 丈春
うーん、答えに困る……

丈春さんは顎に手を当て、至って真剣に悩みだした。
蓮井 丈春
蓮井 丈春
まずは、フォルムだよな。
目がくりくりしてるし、額が狭いのもいい。
しっぽと耳は感情に直結してて、喜んでると分かりやすい。
鳴き声は個性があってかわいい。
肉球も体も柔らかくて最高。
こっちが構ってほしい時にはそっぽを向くくせに、何かに集中してる時に限って邪魔をしてくる気まぐれな感じ……萌えるよね
真弓 朋果
真弓 朋果
な、なるほど……っ……

饒舌じょうぜつに猫に対する愛を語る丈春さんがおどけた感じに見えてきて、再び吹き出してしまいそうになるのを我慢した。


私が笑いそうになっていることにきっと気付いているはずなのに、彼は穏やかな顔を崩さない。


そういうところに、もっともっと、惹かれていく。
蓮井 丈春
蓮井 丈春
あっ。
忘れないうちに、連絡先交換しとこ
真弓 朋果
真弓 朋果
えっ、いいんですか?
ぜひ、よろしくお願いします

私たちはスマートフォンを取り出して連絡先を交換し合った。
真弓 朋果
真弓 朋果
(期せずして、連絡先ゲット……!)

もちろん、ボランティア活動に混ぜてもらうための交換だ。


それでも、連絡先に彼の名前があるというのは、嬉しいものだった。


【第8話へつづく】