第16話

ごまとだいふくを家族に
652
2020/08/21 09:00
動物病院でだいふくの検査結果を待っている間に、丈春さんも到着した。


私と母と、丈春さんの三人で、検査結果を聞くことになる。
獣医
獣医
腸閉塞です。
お腹の中に、異物がかなり溜まっていました
真弓 朋果
真弓 朋果
異物……
獣医
獣医
興味があって食べてしまったんでしょう。
すぐに開腹手術が必要になります。
野良猫を保護して来られたと伺いましたが、いかがなさいますか?

私も丈春さんも、助けてほしいのは山々なのに、即答できなかった。


こればかりは、私たちの判断でどうにでもなるものではない。
朋果の母
朋果の母
助けてあげてください。
うちで引き取ります

そんな中、母は昔の飼い猫を思い出したのか、涙目で訴えた。
真弓 朋果
真弓 朋果
お母さん、いいの?
朋果の母
朋果の母
うん。
お父さんももう一度猫を飼いたがってるの。
朋果も、それでいい?
真弓 朋果
真弓 朋果
……! うん! ありがとう!
先生、お願いします!

こうして、だいふくは手術をしてもらえることになった。



***



手術の間は待つことしかできないので、私たちは一度それぞれの家に戻った。


父も仕事から帰ってきて、三人でこれからのことを相談する。
朋果の父
朋果の父
猫を……抱っこしたのか? 朋果が?

父は、私が猫を苦手なままだと思っていたので、心底驚いていた。
真弓 朋果
真弓 朋果
いつの間にか体が動いてて……。
でも、相手がだいふくだったからだよ
朋果の母
朋果の母
あの子たち、いつ見ても穏やかで人懐っこいものね
真弓 朋果
真弓 朋果
うん……。
すごく、かわいい

談笑はここまでだ。


今は手術の成功を祈りながらも、他に話し合うことがある。
真弓 朋果
真弓 朋果
……それでね。
だいふくを引き取ることにはみんな賛成だと思うんだけど。
私は、ごまも一緒に、責任を持って迎えたいの

だいふくとごまは、ほぼ間違いなく兄弟で、ずっと一緒に過ごしてきている。


今回のことも、ごまが鳴いて知らせなかったら、私は気付かなかったのだ。


できることなら、これから先も一緒にいさせてやりたいという思いが強い。



でも、それには両親の許可がいる。


進路も決まっていない身でお願いをするなんておこがましいと思うけれど、これだけは譲れなかった。


深く頭を下げて、両親に頼み込む。
朋果の父
朋果の父
……朋果、怖がらずにお世話できるか?
みんなで協力してやるんだぞ?
真弓 朋果
真弓 朋果
っ!! いいの!?

父は一切反対せず、穏やかに笑って頷いた。
朋果の母
朋果の母
朋果が大の苦手だと思っていたから、今まで飼えなかったのよ。
今度は一緒にお世話ができるね
真弓 朋果
真弓 朋果
……ありがとう
朋果の父
朋果の父
それに、朋果は最近ずっと、自分にできることを探そうとしてる。
そのご褒美かもしれないな
朋果の母
朋果の母
朋果が自分から私たちに見せていなくても、努力していることも、ボランティアも手を抜かずにやっていることも、ちゃんと知っているよ

両親が認めてくれたのは、猫たちを迎えることだけではなかった。


私のことも、既に認めてくれていたのだ。
真弓 朋果
真弓 朋果
ありがとう……嬉しい

人生で初めて、泣きながら笑った。



***



だいふくの手術は無事に成功したと、連絡があった。


「だいふくが心配だから」と再び合流した丈春さんも、今は一緒に獣医さんの説明を聞いている。
獣医
獣医
あと少し連れてくるのが遅かったら、命を落としていたかもしれません。
衰弱はしていますが、じきによくなるでしょう
真弓 朋果
真弓 朋果
よかった……

もし、だいふくの異常に気付いていなかったら。


英文の中に、猫についての表記が出てこなかったら。


私は彼らを探しに外に出ていないだろう。


私の偶然の行動が、誰かを救うこともあるのだと知って、安堵すると同時に体が震えた。
真弓 朋果
真弓 朋果
ほんと……よかったぁ……
蓮井 丈春
蓮井 丈春
抱っこするのも怖かっただろうに、よく頑張ったね
真弓 朋果
真弓 朋果
いえ、もう全然!
怖くなかったです!
蓮井 丈春
蓮井 丈春
そっか。
ごま大福コンビ様々だな

ようやく、心の底からほっとする。


慌ただしい一日が、こうして幕を閉じた。


【第17話へつづく】

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