第5話

ときめきをくれる人
蓮井 丈春
蓮井 丈春
今の世の中、本当にやりたいことが見つかった時には、強い気持ちさえあれば実現できるよ。
だから、今は今しかできないことを大切にした方がいい
真弓 朋果
真弓 朋果
なるほど……。
すごく分かりやすくて、ほっとしました。
ありがとうございます
蓮井 丈春
蓮井 丈春
うん

私と三歳しか変わらないのに、丈春さんは随分と大人だ。
真弓 朋果
真弓 朋果
(やっぱり、この人が好きだな……)

憧れている気持ちもあるけれど、こういう見返りを求めない優しさが、とても好ましいと思う。


それと、もうひとつ――。
真弓 朋果
真弓 朋果
丈春さんってなんだか、学校の頼れる先生みたいです。
そういうオーラがあるっていうか

率直に、丈春さんからは、人生の先輩というよりも学校の先生に近い雰囲気を感じる。


それを聞いた彼は、これまでにないほど嬉しそうな反応を見せた。
蓮井 丈春
蓮井 丈春
えっ、本当!?
それは嬉しいなー
真弓 朋果
真弓 朋果
どうしてですか?
蓮井 丈春
蓮井 丈春
俺は、小学校の先生になりたいんだ。
だから、大学では初等教育を専攻してる

驚きはなかった。


丈春さんにぴったりの職業だ。


彼もまた、夢をしっかりと持っているタイプの人なのだろう。
真弓 朋果
真弓 朋果
それは知らなかったです。
猫が好きなのかと……
蓮井 丈春
蓮井 丈春
猫も大好きだけど、子どもたちも大好きだよ?
でもさ、ピアノが苦手でさ……。
得意な友達に教えてもらってるんだ
真弓 朋果
真弓 朋果
分かります。
ピアノって、両手をバラバラに動かすの難しいですよね!
蓮井 丈春
蓮井 丈春
そう、それ!
どうやっても一緒に動くって……
真弓 朋果
真弓 朋果
あはは。
……あの、いつ頃から先生を目指し始めたのか、聞いてもいいですか?
蓮井 丈春
蓮井 丈春
えっとね。
高校二年の時にボランティア活動に参加してから、だから……。
あ、朋果ちゃんと同じくらいの時か

三年前、丈春さんは夏休み中にいくつものボランティア活動に参加したとのこと。


その際、小中学生に勉強を教えることがあり、その経験を経て教師を目指すようになったらしい。
真弓 朋果
真弓 朋果
(丈春さんも、ずっと昔から先生になりたかったわけじゃないんだ。私も今から、見つけていけるかな?)

先ほどの言葉にも説得力があって、私は彼の話に聞き入ってしまった。
真弓 朋果
真弓 朋果
ボランティア活動って、どんなものがあるんですか?
蓮井 丈春
蓮井 丈春
そうだね……。
その時限りのものもいっぱいあるし、一言で説明するのは難しいな。
……あ!
俺、この地域のボランティアサークルに入ってるけど、今度朋果ちゃんも来てみる?

思わぬ誘いに、私は息を呑んだ。


丈春さんが夢を見つけるきっかけとなったボランティア活動がどのようなものか、私も参加してみれば、新しい発見があるかもしれない。


そして、丈春さんと同じ時間を過ごすこともできるという、一石二鳥だ。
真弓 朋果
真弓 朋果
行きます!
蓮井 丈春
蓮井 丈春
うん。
元気があってよろしい。
サークルの人たちも、若い子が来たって喜ぶよ

気付いた時には、勢いよく即答していた。
真弓 朋果
真弓 朋果
(夏休み中にできることがひとつ、見つかった! 丈春さんに相談してよかった……)

こうなったきっかけは、猫たちが私に寄ってきてくれたからだ。


少しは感謝しなければと思ったのも束の間、近くでくつろいでいたごまが、急に私の膝に飛び乗ってきた。
ごま
ごま
ニャッ
真弓 朋果
真弓 朋果
ひいっ!

ごまは軽い挨拶のような鳴き声を上げて、そのまま私の膝の上で寝そべった。


怖くて震えながら、隣にいる丈春さんをゆっくり振り返る。


彼は笑っていて、それは私を試してみたくてうずうずしているようなものだった。


普段はほんわかしている彼の、初めて見る表情だ。
真弓 朋果
真弓 朋果
た、助けてください。
お願いします
蓮井 丈春
蓮井 丈春
待って。
苦手克服のチャンスだから、そのままごまの背中を撫でてみなよ
真弓 朋果
真弓 朋果
えええ……
蓮井 丈春
蓮井 丈春
あはは

私が眉を下げて困惑していると、丈春さんは更に笑った。
真弓 朋果
真弓 朋果
(意地悪なところもあるんだ……)

膝の上に猫が乗っているというのに、不覚にもときめいてしまうものだ。


【第6話へつづく】