あれから、暇があれば病院に行って話した。
学校の話をして、あれこれ話して二人で笑って・・・
そうしていると、寿命があと少しなんて感じなかった。
毎日が楽しくて・・・
でも、そんなある日のことだった。
一面銀世界に包まれて、春、満開に咲いていた桜の木は雪で覆われていた。
そんな、寒い日。
公立高校入試の前期で、国際科を受けて受かった私は、暇を持て余していた時期。
・・・・・・彼は、この世から去った。
ちょうど、卒業式まで一か月もないくらいの日だった。
相当心臓が弱っていたみたいで、ここまで生きられたのがすごいっていうくらいらしい。
その事実を受け入れたくなくて、嘘だって言ってほしくて、病院へ行った。
彼がいた病室のベッドは、真っ白でもう何もなかった。
しんと静まり返った病室。
彼の温かい声が聞こえることはなかった。
「侑介・・・・侑介っ!!!」
名前を叫んでも返事なんて返ってこない。
せっかく、仲良くなれた。
・・・・初恋だったのに。
初めて好きになった人に思いを伝えられないままだ。
もう、もう届かない・・・
「一緒に・・・・卒業する・・・・約束はっ?守るって・・・言ったじゃんっ!!!」
叫んでも、返ってこないのはわかってる。
でも・・・・
桜岡『侑介って呼んでよ!』
桜岡『あなた!!』
その声が頭から離れなくて・・・・
彼の笑った顔が、頭から出ていかなくて・・・
「侑介ッ・・・・」
零れ落ち続ける涙は、誰もいない病室の床を濡らしていく。
私は、どうすればいい?
侑介に、できることは?
一日中、考えた。
勉強なんて、手を付けずに考え続けた。
侑介のために私ができること。
直接的なことはできないけど・・・
でも・・・・・
何かしてあげたい。
私が考え付いたのは、単純で、でも彼との約束を果たすことだった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!