綺麗な並木道を猛ダッシュで走る。
風があざ笑うかのように吹く。
そんなこと気にせずにひたすらに走った。
着いたのは、『並木中央病院』と大きく書かれた建物。
見上げるだけで威圧感のある建物をにらみつけるように、入り口までまた走る。
自動ドアが開く動きさえ遅く感じて半分あいたところで入り込んだ。
受付で、『桜岡侑介』の名前を告げる。
結構ボリュームが大きかったのか、周りの人が迷惑そうな目を向けた。
それにペコッと謝罪した。
案内してもらった部屋番号509へ足を進める。
そこには、『桜岡侑介』と名前があって、彼が”病気”であることが事実だということを思い知らされた。
でも、ためらっている暇なんてない。
勢いよくドアを開けた。
すると、そんな音すら耳に入っていないかのように窓の外を眺める君がいた。
見た目はほとんど変わっていない。
でも、制服じゃないこと、体にたくさん取り付けられた管・・・
それだけは全然違っていた。
「・・・桜岡君。」
ためらいがちに出た声。
その声に桜岡君は振り向いた。
桜岡「えっと・・・同じクラスだよね?名前は・・・」
知っているだろう、なんて期待した自分がいた。
知っているはずもないか。
話しかけるの初めてだし・・・
「あなた。松井あなた。」
下の名前で呼んでほしいなんて図々しいと思うから、強調だけしておいた。
桜岡「松井さん。お見舞いに来てくれたんだよね。ありがとう。」
と言って、笑った顔。
自分の胸がきゅっと苦しくなる。
「・・・桜岡君はさ、何の病気なの?」
単刀直入だと思ったけど、他に言葉が出なかった。
桜岡「知らなかったんだ。僕は、心臓の病気。」
”心臓の病気”
もう、絶対に治らないような言い方だった。
何も言えない私を察してか、桜岡君はつづけた。
桜岡「生まれつき、心臓の形がおかしくて・・・。20までは生きられないって言われてる。」
って言うことは、もう治らない・・・
桜岡「最近、また様子がおかしくなっちゃって。入院することになったの。」
あまりにも淡々と述べる桜岡君。
私の頭はついていけなかった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。