中3の春。
新しい学年に上がって、クラスも変わった。
新しい教室で深く深呼吸をする。
ここが今日から私が過ごす場所。
そして、中学校生活最後の場所となる。
あなた「よし!」
私は一人で気合を入れた。
仲のいい友達が何人か同じクラスで少しばかりホッとする。
紗江「おっはよ!あなた!」
そう言って肩をトンッと叩かれた。
あなた「あっ、紗江じゃん!同じクラス?」
私は振り返って笑いかける。
紗江「そうみたい!よかった〜!あなたが一緒だと安心!」
そう言ってクスクス嬉しそうに笑う姿は誰が見ても小動物みたいで可愛い。
あなた「私も紗江と一緒でよかった!」
2人でずっと話してたら、続々と同じクラスメイトが教室へ入ってきた。
見慣れた顔もあるなか、1人だけ見たこともない人がいた。
その子は、迷わずに窓際の席に座った。
みんなが友達と話しているなか、その子だけはずっと窓の外を見ていた。
何を見ているのか気になった私は、紗江の話を耳で聞きながら目線を窓の外へ向けた。
彼の視線を追ってぶつかったのは桜の木だった。
今年の桜は例年よりも早く咲いたため、もう葉桜といってもいいほど綺麗な緑が混ざっている。
私も思わずその桜の木を見つめた。
紗江「ちょっと、あなた!聴いてる?」
紗江の一言で我にかえる。
あなた「も、もちろん!聴いてたよ!」
と、私は咄嗟に嘘をつく。
でも紗江にはお見通しみたいで、
紗江「ったく・・・。桜でも見て、たそがれていたわけ?」
紗江が変な目を私に向けるもんだから、
あなた「私はたそがれてないよ!」
思わず批判した。
紗江「そう?」
半信半疑みたいだったが、なんとか誤魔化せたみたいだった。
このときの私は知らなかった。
そういうよりも、幼かったのかもしれない。
後々彼のことを好きになるなんて、知る余地もなく始業式が始まろうとしていた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。