第31話

 不幸の祝福
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2021/10/30 08:46
……うん、やっぱり、おかしい。
蓮が、あそこに1週間も来ないなんて。
忙しいんだとしても何も言わずになんて、
さすがになんかちょっと変だ。
話したいことだけが、伝えたいことだけが、
募って体が叫び出す。
だから私は思いっきり素直になってみようと思った。
学校の帰り道、初めて寄り道をする。
頭の中で伝えたいことを反芻しながら
「なんで来なかったの?」
……なんかちょっと感じが悪い気がする。
「そう言えば、いじめ、なんか軽くなったの。」
……どうでもいいって思われないかな。
「髪切ったんだ。」
……反応されなかったらどうしよう。
「最近なんか寒いね。」
……ぅぅぅ、絶対会話が続かない。
でも多分きっと大丈夫だ。
だって久しぶりって笑って言えるから。
そしたら蓮もきっと笑い返してくれるから。
蓮が通う東中学校前の信号に立ったら
そう思えてきた。
蓮が生きていて、また話せたら
もうきっと大丈夫だと。
……花、束?
それに事故について知らせる貼り紙。
その鮮やかな色に目を奪われて、心臓が鳴り響いて。
胸がざわついて不安で急いで信号を渡った。
校門の前に立って、息を吸う。
カウントダウンを始める。
3、2、1、0。
「あ、あの。山中蓮ってここの高校の生徒ですよね?」
スカートの裾を握りしめて声を出す。
見知らぬ男子生徒2人が目を見合わせて
私に視線を戻す。
こんな目に合わせやがって……
蓮に会えたら、文句言ってやろう。
そして、でも
知らない人と話せたことを自慢しよう。
「蓮なら、事故にあって、死んだよ。」
「ちょうど1週間前、そこで。」
「……え」
手がスカートから滑り落ちる。
冷や汗が額を伝う。
歯が、体が、震える。
蓮が、死んだ……?
嘘、だ。嘘だ嘘だ嘘だ。
「うそっ……」
「……良かったらお墓まで案内しようか?」
瞳に微妙な影を宿した男子中学生の
その一言が私の中の何かを崩した。
「……いい。ごめんなさい。」
私はとにかくあの場所まで走った。
赤波真琴を、終わらせるために。
蓮に会うために。

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