第29話

 気持ちのお返し
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2021/10/24 10:08
私の体から熱が、段々と離れていく。
蓮の体がゆっくりと離れていく。
まるで体に新たな温もりを与えるように強く強く
抱きしめられていたのに、今はもう私の体には
風しか当たらない。
なぜだかそれが異常な程に私を強気にした。
急に勇気が湧いてきてちょっと無敵な気がしてきた。
今なら、あのことを聞ける気がした。
会ってからずっと心の奥にあった違和感を。
いつも蓮の中にある驚くほど暗い孤独を。
「ねぇ、蓮。あの、その、さぁ。」
「何?もしかして嫌だった?」
「いや、そうじゃなくて。あのね、
どうして蓮、嘘ついてたの?」
「はぁ?」
「だって。最初に声をかけてきた時と今じゃ全然
性格違うし、今でも何か隠してる気がするし、
どれが自然なのか、分からなくなる。」
「……そう、だな。」
「私で良かったら聞きたいな、って。」
「別にそんな大した理由はないけど。」
「それでもいい。聞きたい。」
「俺さ、孤児なんだよね。養子。
なんか偉い金持ちに拾われて普通に
育てられてきたはずなんだけど。」
「うん。」
「でもやっぱり捨てられたって恐怖がどこかにあって。
だから嫌われたくない、ってか捨てられたくないっての?
そういう意識があったから、常にその人に対する
いい人を演じてたんだと思う。」
「……うん。」
「それが多分真琴に会った時の、理由。
真琴が感じてたはずの違和感。」
「そう、なんだ。」
「でもさ真琴がそういうのすっかり
通用しないし俺より意味わかんないし、
だから段々自然な感じになってたのかも。」
「なんか、ありがとな。」
そういう蓮の口は笑ってるのに、今にも
泣きそうに見えて、悲しそうで私は混乱した。
人を慰めるにはどうしたらいいかなんて
分からなかったから、今までで1番嬉しかったことを
選んだ。
「し、失礼します!」
ぎゅうっ
恥を捨てて思いっきり蓮を抱きしめた。
消えてしまわないように、
溶けてしまわないように、
この世に留めておくように、つよく、つよく。

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