第28話

 少しの勇気
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2021/10/19 10:30
「ねぇ、蓮。」
「んー?」
ここんとこ表情のバリエーションが増えて
話すことを覚えた機械みたいになっている真琴の
目が微妙に泳いでいる。
最近は、見たことない微妙な表情をしているので
見ているこっちは面白い半面呆れている。
「私さお父さんと血繋がってないんだよね。」
「……はぁ?」
突然のシリアスな話題に脳が追いつかない。
お父さんと、血、繋がって、ないんだよね
単語が区切られて脳に叩き込まれていく。
だけど言葉はすんなりと奥深くに溶け込んでいく。
だって、それは俺が言いたくて
言えなかった一言でもあるから。
「まぁ、いわゆる虐待?ってやつを受けてて」
「うん。」
「いわゆるいじめってやつも受けてるわけ。」
「……うん。」
「なんかそれで自暴自棄になって
なんにも感じないようにしてた。」
「うん。」
「だけどやっぱり寂しかったんだと思う。」
「うん。」
「だからね、あの、そのっ。」
「ありがとう。私を見つけてくれて。」
へにゃあという効果音がつきそうなほど
力を抜いて笑う真琴。
長い黒髪が夜風に揺れている。
だけどその目は消して隠れたりせずに
こちらを静かに見据えている。
そう、まるで「水面鏡」
だけどもういつかのように恐怖を覚えたりはしない。
こいつは誰にも愛してもらえなかった
寂しいただの少女で、赤波真琴だと知っているから。
俺は体ごと向きを変えて何となく、
あの日のように、本当に何となく言葉を噛み締めて
真琴を強く抱きしめる。
「え、えぇ。何?何?!」
「ちょっとだけ、だから。」
慌てる真琴を留めるように強く強く体を押し付ける。
この細い体のどこに、その寂しさは、悲しみは
恐怖はあるのだろうか。
それは、俺にも真琴にも分からない。
誰にも分からないけれど、でもここにある。
そして生きているこの体は、温かい。
この温もりは、心地いい。

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